vol.2
高橋 孝之2020年6月
高橋 孝之
外資系コンサルティングファームのアクセンチュア、日系シンクタンク、P&Gを経て、ハンズオンの事業再生・コンサルティングに従事。ホジョセン設立後は、ほとんどのプロジェクトで責任者を務めている。キノコがとても嫌いで、外食におけるキノコ察知能力に優れる。京都大学法学部、英国グラスゴー大学大学院社会科学研究科卒。修士(国際政治学)。大阪学院大学非常勤講師(2018-19)。
「Withコロナ」や「アフターコロナ」、「ポストコロナ」といった言葉があちこちで聞かれ、今だけでなくこれから数年、数十年先の未来にまで影響を与えるとされる新型コロナウイルスの流行。先日、都道府県をまたぐ移動が解禁されたものの、依然としてその影響は計り知れません。世の中で必要とされるモノや価値観も変化していく中で、マーケティング戦略の見直しに迫られている企業やブランドも少なくないでしょう。そこで今回は、「ポストコロナにおけるシナリオ・プランニングの考え方」について、弊社代表の高橋にインタビューを行いました。
現在、あらゆる業界でコロナショックによる影響が出ており、先の見通しがなかなか立たない状況が続きます。ポストコロナのマーケティング戦略は、どのように考えていくべきなのでしょうか。
まずマーケティング戦略というのは、一般的なフレームワークに当てはめるならば、①PEST分析で世の中を見て、②3C分析やSWOT分析で自分たちの強みとなる資源を明らかにし、③STPで実際に戦略を立て、④4Pで戦術を考える、といった流れになります。では、ポストコロナではいったいどこが難しくなるのかというと、①のPEST分析の部分で、世の中がどうなっていくのかが「よくわからない」ことが問題になります。例えば、ワクチンの開発の見通しが立っていないなど、世の中の流れが非常に不確実になっているんですよね。こうして一番初めの分析の段階からつまづいてしまうことも多いかと思います。
PESTの部分がわからないと、それ以降の意思決定も定まらないですよね。
そうなんですよ。でも、マーケターとしてはぼーっとしていられるわけでもなく、何か考えないといけない。そこで、不確実な世の中でも臨機応変に対応できる「柔軟な戦略」というものが必要になってきます。
「柔軟な戦略」とは?
そもそも戦略というのは、目的に応じた資源の配分指針といわれるように、「目的」と「資源」という2つの要素から決定されるものです。そして、ポストコロナという状況下で果たして目的と資源が大きく変化するのか?ということがクリティカルな疑問となる中で、その状況が不確実で決め打ちできないことがコロナ禍特有の問題になっています。つまり、不確実なポストコロナで想定される複数の「シナリオ」が、それぞれ別の形で目的と資源を変化させ得ることを念頭に、マーケティング戦略を考えなければなりません。
シナリオによって目的や資源が変化する、というのはピンとこないかもしれませんので、1つ例を挙げてみましょう。例えば都内で人気のスポーツバー。コロナ以前は大変繁盛していて、特にラグビーワールドカップの頃にはみんなで集まってわいわいお酒を飲み、大画面で試合を観て、得点が決まれば知らない人ともハイタッチして喜びを分かち合う…。そこでは、場を盛り上げる「大きなスクリーン」や「音響設備」、それが外に迷惑にならないような「防音設備」といったものが、スポーツバーにとって非常に重要な資源でした。
しかし、例えばコロナ禍で三密を回避しなければならない状況が続く場合、これらが資源として使えなくなってしまう。つまり、平常時には資源であったものが、ポストコロナの状況次第では資源でなくなる可能性があるわけです。もちろんこれは逆の場合もあって、例えばこのスポーツバーでは食事が全て冷凍でレンジでチンして提供していた(平常時なら少し残念ですが…)場合、それが人の手に触れていないというポストコロナ特有の価値を提供できる新たな資源にもなり得るわけですね。そして戦略の目的についても、ポストコロナの状況次第では、「みんなで集まって楽しめる場を作る」といったブランドの目的そのものを変更しなければならないかもしれません。つまり、戦略における目的や資源は、ポストコロナで想定されるシナリオによって大きく変化する可能性があるのです。
だからこそ、ポストコロナで起こりうる複数の「シナリオ」を想定し、それぞれのシナリオ下で自分たちの目的や資源がどのように変化し得るのかを予め考えておく柔軟なマーケティング戦略が必要になってくるというわけです。
では、具体的にどのようなシナリオを考えるべきでしょうか。
これはなかなか簡単にはいえません。なぜなら、例えばワクチンが何年後に開発されるということは、その状況が企業やブランドの戦略を左右することがわかって初めて‟自分たちにとっての”シナリオになるのであって、自分たちの目的や資源に影響を与えないのであれば、ワクチンがいつ開発されようが戦略は変わらないので、シナリオとしては必要ないからです。このようにシナリオと戦略はリンクしていなければならないので、一般化はなかなかできないんですよ。なので、ネット上に転がっている「ポストコロナの世界はこうなる!」といった予想がそのまま使えるのではなく、自分たちにとって想定しておくべきシナリオは何なのかを各事業やブランド毎に詳細に検討していく必要があります。
こうして、まずポストコロナで想定される複数のシナリオを自分たちに影響を与える範囲で作ってみる。そして次に、それぞれのシナリオ下で目的や資源がどう変化するかの評価を行う。この流れこそが、不確実なポストコロナにおけるマーケティング戦略を考えるうえで最も難しく、同時に最も有効な方法だと思っています。
具体的なシナリオの作り方については、また次回お話しさせていただきます。
頭が沸騰するような難しい問題に直面するとワクワクできる皆さまのエントリーを、心待ちにしています。
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