この人の話を聞いてはいけない~マーケターが設定すべきもう一つのターゲット

高橋 孝之

「ターゲットを絞りましょう」、多くの書籍やコンサルタントが口を酸っぱくして主張している内容で、ホジョセンのブログでもたびたび取り上げてきました。

基本的な考え方としては、ターゲットを絞るということでマーケット全体における自分たちの選択確率を上げる効果があり、絞らないときと比べて圧倒的に効率がよい、というものです。ひとことで言えば、ターゲットを絞るのは、マーケット全体で勝つための効率追求です。ターゲットを絞らないほうが(市場全体をターゲットにしたほうが)よりウケる、と考える方もいますが、そういう方はぜひ先ほど紹介したコラム「2位じゃダメなんでしょうか?~続ターゲットを絞る」をお読みください。

ターゲットを絞り込んだうえで、そのターゲットやユーザーに話を聞くというプロセスは、プロダクトマーケティングだけではなく、最近ではITサービス、スタートアップ界隈でも盛り上がっています。ユーザーに話を聞くことで、プロダクトやサービスの改善点を抽出したり、今後の方向性を議論したりします。

ですが、ユーザーだからといって、もしくはターゲットの条件を満たしているからといって、その人の話を参考にビジネスを考えてよいのでしょうか? 単にロイヤルユーザーを抽出してくるだけで、よいのでしょうか?

今回のホジョセンコラムは、「非傾聴ターゲット」と呼んでいる「この人の話を聞いてはいけない」というターゲット層について、議論します。

非傾聴ターゲットとは?

ターゲットは、目的に応じて使い分ける必要がある、ちょっと面倒な概念です。ホジョセンで使用するターゲット概念だけをピックアップしてみても、戦略ターゲット、プライムプロスペクト、デザインターゲット、PoME(Point of Market Entry)、インフルエンサーなどなど。これらを図に表したのが、以下になります。

さまざまなターゲット

この中で見慣れないのが今回のテーマである「非傾聴ターゲット」でしょう。簡単に定義すると、非傾聴ターゲットとは、ブランドのヘビーユーザーではあるが、ブランド戦略や4P戦術等を考える際にその人の意見を参考にしてはいけない人のことを指します。

典型的には、シャンプーブランドにおける男性ユーザーあたりは非傾聴ターゲットにされがちな層です。TikTokにおける「おじさん」も、コンテンツとしてはともかく、ターゲットという観点からみると非傾聴ターゲットに設定されうる層でしょう。

非傾聴ターゲットの難しさは、そのブランドやサービスについて、ある程度ヘビーユーザー・ロイヤルユーザーである、ということが挙げられます。そもそもあまり使用していない場合、非傾聴ターゲットは、当たり前のようにノンターゲット(ターゲット外)として設定・判断されます。ところが、ロイヤルユーザーだからこそ、ターゲットではないとするには非常に勇気がいることでもあります。

ロイヤルユーザーの中には、話を聞いてはいけない人もいる

たとえばブランドの訴求メッセージの方向性を決めたいと考えたとします。ブランド価値を抽出するために、ロイヤルユーザーにインタビューをするケースは、よくある光景です。

極端な例をひとつ紹介します。

香りが特徴的なあるシャンプーブランドのロイヤルユーザーに対して、インタビューを行いTVCMの訴求内容について意見をもらうことになった。年間購買回数が多く、香りを重視するユーザーに対してリクルーティングをおこなったところ、長髪のバンドマンが抽出された。担当者はすこし不安に感じたが、ホジョセンのコラムで「定性調査の際は、尖がった人にインタビューするのがよい」と書かれていたのを思い出したので、話を聞いてみることにした。インタビューの結果、このシャンプーブランドを使用すると、どれだけ動いて汗をかいてもいい香りが持続することに価値を見出してくれていたので、TVCMでは「激しく動いても、いい香りそのまんま」をキーメッセージとしてオンエアーしたところ、今までの優雅なイメージと乖離してしまい、売上が下がることとなった。

この例の本質的な問題は、長髪バンドマンへのインタビューではなく、その結果の解釈や使い方にあるのは明白です。一方で、担当者の立場になってみると、「インタビューをしたのに、その人の意見を一切無視する」ことへの抵抗があることも想像に難くありません。担当者が、外注のエージェンシーでしたらなおさらですね。その人の意見を参考にするのか、しないのか。それについて議論をすること自体が非常に困難な環境だ、という人もたくさんいるかと思います。

この例が示唆することは、

  • ロイヤルユーザーだからといって、ブランドの目指す方向性と一致するとは限らない
  • そういうユーザーに話を聞き、施策に反映していくことで、ブランド本来の価値を毀損してしまうリスクがある
  • 条件的に当てはまってしまった人の意見を無視することは、やりづらい

ということです。そのためにも、あらかじめきちんと原理原則を定義しておく、すなわち非傾聴ターゲットを設定しておくことが、ブランドマネジメントとして有用なのです。

ユーザー分析の罠

先ほどの例をお読みになって、「そんなわけあるかい」とツッコミを入れた方もいらっしゃるかと思います。確かにインタビューや直接の施策へのインプットとなると、ちょっと考えづらい極端な例だったかもしれません。非傾聴ターゲットなんて定義しなくても、ブランドに従って考えればいいというのは、実は正しい議論であり、理想的な姿だとは思います。

とはいえ、実のところ、多くのブランドにおいて非傾聴ターゲットを意識することなく行われてしまう分析があります。それが、ユーザー分析です。

前述の通り、非傾聴ターゲットは、ブランドのユーザーであり、時としてロイヤルユーザーです。ロイヤルユーザーの分析をしてしまうと、どうしても非傾聴ターゲットがその中に含まれてしまいます。本来理解したかった課題にとって、ノイズになる情報が混じっているリスクがあるわけです。

非傾聴ターゲットのリスクがあるので、購買情報をベースにした決定木分析によるセグメンテーションも慎重になるべきだと考えています。ブランドの観点からすると、ヘビーユーザーが、ブランドをいっしょに創りあげていくターゲットとは限らないわけです。最近はやりの9セグ分析や、RFM分析などにおいても、非傾聴ターゲットの存在を無視すべきではありません。これも理由は同じです。

ユーザーの分析をする際には、必ずそのユーザーがターゲットなのか、ターゲットでないのかを考える必要があります。これはインタビューなどの定性情報だけではなく、定量情報を精査するときにも必要なマインドセットです。

非傾聴ターゲットを定義するには、ブランドの意思が必要

実際のところ、ブランドがどう進むべきなのか、ブランドの選択が明確に提示されている場合、非傾聴ターゲットの問題はあまりおこりません。自然とチーム内に、「この人ターゲットじゃないよね」という空気が流れるからです。

ですが、そのためにはブランドの意思が、文化として定着していなければなりません。多くの企業やブランドでは、まだそこまで「ブランドの意思」があたかも憲法のように適切な制約をマーケターに課しているとは言えないのではないかとも思います。

非傾聴ターゲットの設定は、ブランドの意思を明確にすることでもあります。ターゲットが決まらないと、非傾聴ターゲットを決めることはできませんし、ブランドとしてのビジョンが明確でないと、ターゲットではないと設定すること自体がとても難しくなります。そして、そういうブランドこそ、非傾聴ターゲットの設定が役に立つのです。

鶏と卵的議論になってしまいますが、ブランドマネジメントの一貫として、非傾聴ターゲットについてチームで話し合ってみてはいかがでしょうか?

注意しなければならないのは、わざわざ非傾聴ターゲットとして設定するからには、「ターゲットと混同しやすい」層を設定すべきという点です。ターゲットとはまったく異なる人たちだと、長髪バンドマンの例のような問題は発生しないですよね。似ているようで違う、そういう層を的確に抽出するように心がけましょう。

本文中で紹介したコラム


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