訪問調査とは

高橋 孝之

さて、今回は訪問調査の解説ですが、その前に今回も 6 つの調査手法を軽く復習しておきましょう。なお、量的調査において調査員が各家庭を訪問し集計することを訪問調査と呼ぶこともありますが、この記事においては質的調査における訪問調査について述べています。

代表的な定性調査手法の特徴まとめ
デプス グループ 訪問調査
対象者 単数 複数 単数
時間 30 〜 90 分 60 〜 120 分 90 〜 120 分
調査場所 インタビュールーム カフェ など インタビュールーム 対象者宅
得意分野 仮説の深堀 インサイト発見 仮説の発見 ブレスト 反応理解 インサイト発見
調査難易度 ★☆☆☆☆ ★★★☆☆ ★★☆☆☆
分析難易度 ★☆☆☆☆ ★★☆☆☆ ★★★☆☆
店頭調査 観察調査 エスノ
対象者 単数 単数・複数 単数・複数
時間 30 〜 120 分 1 日〜 1 日〜
調査場所 (擬似)店頭・店内 対象者宅 店頭・店内 特定状況下 など 生活圏内
得意分野 店頭における… 仮説の発見 仮説の深堀 仮説の発見 行動パターンの理解 仮説の発見 インサイト発見 行動パターンの理解
調査難易度 ★★☆☆☆ ★★★★☆ ★★★★★
分析難易度 ★☆☆☆☆ ★★★★★ ★★★★★

訪問調査

対象者
単数
時間
90 〜 120 分程度
調査場所
対象者宅・対象者職場など
適する目的
インサイト発見
リサーチ難易度
★★☆☆☆
分析難易度
★★★☆☆

訪問調査は、あまりメジャーではない調査かもしれませんが、さまざまな気付きを得ることのできる調査です。基本的にはデプスインタビューを対象者宅や対象者の職場にて行うリサーチですが、対象者宅・対象者職場という「相手のフィールド」で行うという特性により、通常のデプスインタビューより広いラーニングを得られると同時に、分析には注意を要する点も潜んでいます。また、エスノグラフィと似たようなアプローチも可能で、よりお手軽に行うことができるという点で、ミニエスノという特徴もあります。

訪問調査の使い所

訪問調査は「発見」に向いている調査です。対象者の日常の場でインタビューが行われるので、訪問調査にて得られる情報量はインタビュールームにおける調査よりも格段に多くなります。言葉だけでは正しく伝わってこない対象者のモノの考え方や、実際の行動パターンをより正確に理解することができます。すべてはインサイトという言葉に集約されてしまいますが、訪問調査は主に次のような問題意識を持った調査に向いていると言えます。

第一に、量的なデータの意味するところをより深く理解したいケースです。量的なデータというのは結果を表しますが、それがどのような意味を持つのかまでは教えてくれません。数字に意味を持たせるために、その数値の意味するところを掘っていくというのは、デプスインタビューと並んで訪問調査の得意なエリアです。たとえば、家の中を整理整頓している、と量的調査で答えた人たちが具体的にどのようなことを考え、どのように整理整頓しているのか、そういった情報は量的にはなかなか取れません(自由回答で多少は取れますが、限度があります)。数値の肉付けに訪問調査は最適だといえるでしょう。

第二に、対象者にとって当たり前すぎて語られることのない情報を得たいケースです。たとえば、赤ちゃんに関するインタビューをしてもなかなか無意識に実行していることに到達できません。訪問調査をすることで、英語の歌を CD でかけ続けていること、常に赤ちゃんの頭を撫でていること、おむつ替えのタイミングを匂いを嗅いで決定していることなど、対象者本人にとって当たり前の情報を語ってもらうことなく理解することができます。

第三に、言葉で説明するのが難しいことを理解したいケースです。たとえば、家庭でのメガネのお手入れの仕方を理解したいとして、言葉で上手に説明できる方がどれくらいいるのでしょうか。これはなかなか難しい。2 番目のポイントとも重なりますが、意識していないこと、意識していても適切に表現しづらいことなど、見たほうが早いケースは多々あります。このように、百聞は一見にしかずを地で行くのが訪問調査といえるかもしれません。

訪問調査分析上の注意点

訪問調査はその情報量の多さ故に、分析者にとってはやっかいなリサーチと言えます。ここでは、2 つの代表的な分析ミスを簡単に紹介したいと思います。

第一に、目的と手段を混同してしまうことが挙げられます。たとえば、ある対象者がたまたまピンク色の洋服が好きだったとします。そしてそのピンク色の洋服をいろいろ見せながら熱く語ってくれたとしましょう。訪問調査では、写真もたくさんとることになります。サマリーではピンクの洋服の写真を PowerPoint にぺたぺたと貼り付けます。

これ自体は必ずしも間違ったことではありません。ですがこれはインタビューにおける速記録のようなもので、あまり意味のある情報ではありません。本当に重要なのは、そのピンク色の服がなぜ好きなのか、どういう気分になりたいのか、どう他人から思われたいのか、等々であって、ピンク色の服というのは、その対象者にとってそうなるための手段でしかないということです。手段は各人ごとに違っているケースが多々あります。ある人にとってピンク色の服で達成される目的が、ある人にとってみたら車で達成されるかもしれません。訪問調査の分析をする際は、対象者の所有しているモノが目的なのか手段なのか、そこをしっかりと区別して理解しなければ間違った方向に進んでしまうリスクにあふれています。

第二に、発言と行動のギャップを無視してしまうことが挙げられます。たとえば、ある対象者は、和食器で食事をとることが大好きだと発言していたとします。ですが、家庭訪問をしてみたところ、和食器はほとんど食器棚の奥に隠れていて、シンクの中にも洋食器しか置かれていませんでした。

このようなケースにおいて、当然モデレーターは深掘りしないといけないのですが、意外と発言だけに流されてしまうケースも多く見られます。せっかくの訪問調査ですので、発言の内容を実際の行動で確認させてもらうようにすべきですし、またそのギャップを適切に浮き彫りにし理解していく必要があります。そして、分析者はそのギャップに対しての知見を端的に述べる必要があるでしょう。理想と現実の違いなのか、単に「やっているつもり」なのか、見栄を張ってしまっているのか。そのギャップに重要なインサイトが隠れていますので、言葉だけ、行動だけで結論づけるのではなく、両者を適切に結びつけながら分析をしていく必要があります。

なお、訪問調査の場合、ごくたまに異様に寒い家や暑い家があったりします。脱ぎ着できる服装で行く事を強くオススメします。次回は店頭調査です。