引きこもりマーケターのためのちょっとマニアックな本10冊 #stayhome

高橋 孝之

新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、ホジョセンの事務所のある東京都・兵庫県に緊急事態宣言が発令されました。これまでも不要不急の外出を控えていたかとは思いますが、ゴールデンウィーク明けまで、ここはおとなしく家に引きこもっておくのが良いでしょう。

以前、「書を捨てよ、街に出よう」というコラムを書きました。マーケターはもっとリアルに現場を見て、考えることによってイノベーションを起こすことができるのだ、というメッセージでした。

さて、今回はその逆です。外出するな引きこもれ、その代わり面白い本を読もう、というメッセージです。いままでも「ブランディングの科学」「確率思考の戦略論」などの本は紹介してきましたが、今回は以下の条件で選びました。

  • マーケティングに役に立ち(ホジョセンとしては当然!)
  • あんまり有名ではない(ひねくれものですからね:条件はAmazon Japanのレビューの数が一桁)

本当は電子書籍で購入できるという条件をつけたかったのですが、学術書や古い本を中心に満たせないケースがあまりに多かったので、泣く泣く諦めました。

ジャンルは、「マーケティング戦略」「マーケティング戦術」「マーケティングリサーチ」の3つに整理しました。各書、かんたんな紹介つきです。

マーケティング戦略

なぜ新しい戦略はいつも行き詰まるのか?

ホジョセンにもたまにいただくのですが、「正しい戦略を立てたい」というリクエスト。なにが正しいのかかわらないまま、「正しい」戦略立案のためにすごく長い時間をかけることはもったいないし、そもそも現時点での「正しさ」なんていつまで続くかわからない。そんななか、正しい戦略のためにどこまでコミットするんだろう、そんな疑問をもって先方にぶつけることもあります。

この本は、「正しい戦略」やその逆の行き過ぎた「現場主義」を批判的に考察し、戦略がコモディティ化し、戦略だけでの差別化が困難になった今日において、戦略をどのように考えるべきかの指針を与えてくれます。

STP戦略をしっかりと揉めば安心だと考えているマーケター、「戦略」って冠する仕事に就くことを夢見る就活生、そして企画しているのに会社が変化していないと悩む企画担当の方々にぜひ読んでいただきたい一冊です。

なぜ新しい戦略はいつも行き詰まるのか?

企業の経済学 (モダン・エコノミックス (5))

世の中をモデル化することは、戦略を考える上でとても重要だとホジョセンは考えています。だから、消費者や市場のメカニズムを特定したり、市場の動きを数式で表現したりすることを大切にしています。モデルというのは、本当に大切なことだけに絞って世の中を単純化することです。本題ではありませんが、もしモデル化に興味がある方でしたら、The Model Thinker科学とモデル―シミュレーションの哲学 入門―もぜひ手に取ってみてください。

さて、この企業の経済学という本はもう35年も前の本ですが、ミクロ経済学の考え方を企業の意思決定などに援用した本です。いわゆるビジネスエコノミクスといわれるジャンルですね。なぜ企業はこのような行動をとるのか、市場の動きを数式で、つまりは単純化したモデルで説明しようと試みた書籍です。古い本ですが、まったく色褪せません。

イノベーションに関する議論も非常に面白くて、組織改革を行うことがイノベーションにとってどれほど重要かを、冷静に、でも力強く語っています。森岡さんの「マーケティングとは『組織革命』である」と比較しながら考えてみると楽しいと思います。

企業の経済学 (モダン・エコノミックス (5))

サービス・ロジックによる現代マーケティング理論: 消費プロセスにおける価値共創へのノルディック学派アプローチ

マーケティングを考えるにあたって避けて通れない議論が「価値」です。価値とはいったい何なのか、価値の源泉とはなんだろう、そういうことをマーケターは常日頃から考えていることと思います。

そんな「価値」について考えるすべてのマーケターに、この本をお勧めしたいと思います。本書では、サービスを財ではなく活動やプロセス、そして現象ととらえ、消費者であってもサービスの生産者として位置づけます。そして価値とは、その現象を受け手(基本的には消費者)が認識、評価、そして受容することで発生するのだ、と考えます。サービスの過程においては、提供者と消費者は協働して価値の創出をおこなう、つまり「価値共創」の概念が誕生します。

この「サービス・ロジック」と呼ばれるノルディック学派のマーケティング理論、僕もまだ十分に理解したとは言えないので紹介するか迷ったのですが、アメリカを中心とするマーケティング観を批判的に学ぶにも適した1冊だと思いますので、この機会にぜひ読んでみてください。

サービス・ロジックによる現代マーケティング理論: 消費プロセスにおける価値共創へのノルディック学派アプローチ

マーケティング戦術

テレビ視聴の構造―多メディア時代の「受け手」像

この数年で、人々のメディアに対する態度が大きく変化してきているように思いますし、企業もそれに対応してきているのを実感しています。インターネット広告費がテレビCM費を上回ったというニュースもありましたし、それこそ昨今のCOVID-19の影響でまた変化していくかもしれません。そんな中、メディア特性を理解したいと考える企業さんも多いようです。

この本は、確率論的なマーケティングの考え方で有名なEhrenbergらによる、テレビ論です。この本はとても古く、日本語版は1991年の発行ですが、原著のTelevision and its audienceは1988年の本、つまりは32年も前の書籍です。当然Netflixに関する論説もありませんし、さまざまなところが現代では通用しないでしょう。

ですが、テレビということを忘れて読んでほしいのです。どのようにチャンネルを選ぶのか、番組が視聴者に届くプロセスはどうなっているのか、テレビを視聴するのにお金を払うのか、など、テレビではなく、「とあるメディア」として考えれば、その経験的考察は、いわゆるEmprical Generalizations(経験的一般化)ともいえるある種パターン化された、今でも十分に通用する知見となるのではないかと思います。

テレビ視聴の構造―多メディア時代の「受け手」像

人は記憶で動く 相手に覚えさせ、思い出させ、行動させるための「キュー」の出し方

マーケティング的に考えると、「記憶」はとても難しい言葉です。「認知」とは何が違うのか、「想起」とはどう違うのか、など突き詰めればそれだけで鳥貴族で5000円くらい使えそうな話題です。記憶していれば、それは認知といえるのか。いやいや、記憶はきちんと呼び起こせる状態になって初めて意味があるんだ、だから何度も刷り込むんだ、など、記憶と認知のハザマで議論しているマーケターも多いのではないかと思います。

さて、この本は「記憶」が意思決定にどのように作用するのかを、脳科学の観点から考察した本です。いわば、意思決定のメカニズムを「記憶」を軸に考えた本。先ほどもメカニズム解明について軽く触れましたが、この本はダイレクトにそこに取り組んでいます。

とはいっても、小難しい理論的な本というよりは、マーケティング戦術を考える上でヒントに富んだ実戦的な本だと思います。次のキャンペーンでちょっと試してみたい、そういう小ネタがたくさん潜んでいる本です。

人は記憶で動く 相手に覚えさせ、思い出させ、行動させるための「キュー」の出し方

広告心理

広告って難しいんですけど、誰でも普段から触れているんですよね。だから、ちょっと失礼な言い方をすると、素人でも何にもわかっていなくても、いくらでも語れてしまうし評価できてしまう。社内でも社外でも、「ワカッテナイアイツ」に痛い目を見させられた人は多いんじゃないでしょうか。もちろん、本当にその人がワカッテナイのかは、わかりませんけど。

そんな、誰でも語れてしまう広告ですが、プロフェッショナルってのはしっかりと考えているんだなということがわかる本。広告の教科書のような、強い主義主張のない本なんですが、それでも広告をどのように考えるべきか、読者にしっかりとした土台を授けてくれる、そんな感じの基本書です。

15年に一度くらいのペースでアップデートされているそうなので、次がもうすぐあるかもしれませんけど、今読んでもとてもいい本だと思います。おすすめです。

広告心理

広告の天才たちが気づいている51の法則

真面目な本ばっかり読んでると疲れますよね。僕もたまに息抜きしたくなります。ちなみに僕は最近、十二国記シリーズを読み始めました。息抜きになるかと思ったんですが、思ったより哲学的な葛藤とかもあって、息抜きというよりきちんと向き合って読まないと・・・となってます。

さて、この本はそんな息抜き用のエッセイ集です。法則というほどでもないですし、エビデンスもほとんどないんですけど、何となく説得力がある。そんな感じの販促エッセイです。なんだか納得いかないことも多く書かれていますが、一方で力強く頷ける「法則」も。個人的には、失敗するぞ系は同意率が高かったです。

この本をすべて真に受ける必要はないでしょう。むしろ、ひねくれて読むと、とてもいい思考実験になります。安易に同意することなく、ぜひ著者に挑戦するつもりで楽しく読んでみてはいかがでしょうか。

広告の天才たちが気づいている51の法則

マーケティングリサーチ

調査の科学

みなさん、調査をするとき、標本や母集団のことをしっかりと考えていますか? これは調査設計における基本中の基本なのですが、これすらできていないような調査が、数多くリリースされ、記事になっています。標本設計に限らず、調査というのはきちんと科学的に設計をしなければならない、意外と難しい代物なのです。

マーケティングリサーチ界隈でもよく使われる数量化理論。英語ではHayashi’s quantification methodsって言いますが、そのHayashiさんによる、「しっかりとした」調査をするための本です。標本設計、調査票設計、実査の仕方から、数字の扱い方にいたるまで、正しく調査をするための基礎の基礎がまとめられています。もともとはブルーバックスで長らく絶版だったかと思うのですが、この度めでたくちくま学芸文庫から再販されたようです。きちんとした正しい調査を実施したいと強く考える調査初心者の方にはぜひ読んでいただきたい本です。

惜しむらくは、古いこと。ブルーバックスは1984年に発売です。当然インターネット調査なんてない時代です。この本に書かれていること事例自体は古くても、原理原則考え方はウェブ調査全盛期の今でも色褪せません。気にせず読んでください。どうしても気になるという方は、とっても高いですが、ウェブ調査の科学 ―調査計画から分析まで―、なんてのはいかがですか。僕は読んだことがないのですけれども。

調査の科学

消費者理解のための 定性的マーケティング・リサーチ

つまらない本を読むのって苦痛ですよね。一度読み始めてしまったものだから、途中で放り出すのも気が引けるし、だからといって読み続けるのもつらい。そんな本、人生で何冊か出会ったことがあるんじゃないでしょうか。

僕もあります。この本です。この本は、本当につまらない。よくもまあこんなつまらない本を書いたものだと関心するくらいつまらない。これをすべて訳した訳者は本当に忍耐力のある人に違いない。本当に読むのがつらかったし、時間がかかった。1か月以上かかったんじゃないかな。それくらいつまらないし、進まない。文字がすごく多いし、図表なんてまったくないし、ページ開いたら文字で真っ黒けなんですよ。つまんない上にその仕置き。本当につまらない。

なのですが、定性調査に関しては一番の本だと思います。細かいことや、ちょっとした悩みなんかも結構触れられているんですよね。べき論的な、正しい意見が載っている。もちろん実務ではそんなことできませんわー、ってのも多いんですけれども。この本は、辞書的な使い方が理想でしょうが、まずはどんな内容が書かれていたか通読するほうが良いでしょう。多少アカデミックな観点が強いかもしれないですが、定性調査に悩むすべての、いや、忍耐力のある人にお勧めしたい定性調査のバイブルです。

消費者理解のための 定性的マーケティング・リサーチ

マーケティング・リサーチのわな — 嫌いだけれど買う人たちの研究

ホジョセンは、調査を実施することも多いですが、調査結果を鵜呑みにすることはほとんどありません。消費者が言ったことを素直に報告することもありません。みんなひねくれているので、その発言の意味するところ、背景や文脈によって、解釈を揺らすことも多々あります。

この本は、副題にもあるように、マーケティングリサーチにおいて散見される、言説と行動の不一致にフォーカスを置いて検討しています。定量データを統計的に解析した結果を、定性データと突き合わせるというお手本のようなプロセスも垣間見ることができます。

調査初心者の方がこれを読むと、とても将来が楽しみなリサーチャーになる気がしますが、僕としてはある程度調査経験のある方が読む方が、実感も込めて理解できるのではないかなと思います。

マーケティング・リサーチのわな — 嫌いだけれど買う人たちの研究

さいごに

マーケティング関連の書籍の紹介、きっとたくさんあふれてるんだろうな、そう思いながら、どちらかというと有名ではないけれどもすごく良い本だと僕が信じている本を選んでみました。有名か否かの判断は、Amazonのレビュー件数を基にしましたので、実際には有名だけどレビューされていない本もあるかと思います。そのあたりはお許しを。

各書籍のアマゾンリンク経由でご購入いただけると、ホジョセンにちょっとだけお小遣いが入るみたいです。いただいたお小遣いでまた新たな書籍を購入させていただければなーと考えています。アフィリエイトが嫌な方もいらっしゃるかと思いますが、ご理解のほどよろしくお願いいたします。また、こんな本もマニアックだけどいい本だよ、というおすすめ、お待ちしています。ぜひいろんな本を教えてください!

一刻も早くCOVID-19が落ち着くことを、そして一人でも多くの命が救われることを祈って、引きこもり本を読みましょう。

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