コラム

消費者のブランド認識を探ろう! ラダリングの心得

マーケのヒント
執筆
小澤 亮太
公開日
2023年1月27日
更新日
2023年1月27日

どうですか最近、定性調査してますか? 私は先日してきました。

複雑で多岐にわたる消費者の考えを知る上で、対象者に直接お話を聞く機会である定性調査は欠かせないものとなっています。しかし、定性調査では何を目的にどんなことを聞けばいいのか、そもそもどんなふうにマーケティングの役に立つのか、いまいちピンとこない方もいらっしゃるのではないでしょうか?

今回のコラムでは定性調査の際に使われる手法の一つであるラダリングを紹介しながら、それがどのようにマーケティングの助けになるのかをお伝えしていきたいと思います。では参りましょう!

ラダリングの目的と考え方

ラダリングとは、抽象的な上位概念を聞き出すラダーアップと具体的な下位概念を聞き出すラダーダウンを駆使しながら、対象者の中の価値構造を探っていく調査方法です。梯子を登ったり降りたりしながら探索するイメージですね。例を使ってもう少し具体的に説明します。

例 : あるスナック菓子について、1人のインタビュー対象者に「このお菓子を食べることでどんな気分になりますか?」と質問したところ、「気分が上がる」という答えが返ってきた。

この回答を受けて、ラダーアップの場合は、「気分が上がるとあなたにとってどんないいことがありますか?」と聞くことで、「気分が上がる」に繋がる上位の価値観を探ります。ラダーダウンの場合は、「気分が上がるとは具体的にどのような状態のことですか?」と聞くことで、その人の中での「気分が上がる」の具体的な状態から、そこに繋がる評価対象の特徴を探っていきます。

ラダーアップとラダーダウンを繰り返すことによって、評価対象についての好き・嫌いといったざっくりとした統合的判断から、評価対象のどのような点に魅力を感じているのかといった細かな要素的判断まで、対象者の中での認知構造全体を把握することができます。

例えばラダリングを行った結果として、スナック菓子について以下のように対象者の価値構造を図示することができます。

このようにまとめることで、対象者が価値だと感じるそれぞれの項目が、相互にどのような関わり方をしているのかを構造的に把握することができます。

実際に定性調査を行う際、ラダリングを用いた調査手法の一つに、提示した要素の比較を通じて対象者による判断を簡便にした「評価グリッド法」があります(詳細はここでは省略します)。

マーケティングとラダリング

「で、ラダリングがマーケティングとどう繋がるの?」という話なのですが、ラダリングによって得られる知見は主に以下のような点でマーケティングに役立ちます。

  1. あるブランド・商品に対する消費者の中のイメージを把握でき、今後のブランド戦略の方向性を定められる
  2. 消費者がブランド・商品のどんな点に心を動かされているかがわかり、訴求するポイントを絞れる

ラダリングを通して、インタビュー対象者が評価対象(特定のブランド・商品など)について持っている印象について深掘りすることができます。その中には作り手が意図してコミュニケーションしてきたもの以外に、中には作り手が意図していなかったけれど対象者は持っているイメージも含まれます。つまりラダリングを用いた定性調査は、消費者が持つブランドイメージの実態を把握するきっかけとなります。さらにラダリングでは対象者の価値観を具体-抽象の階層構造で把握できるため、あるブランド・商品がどのような価値観のもとで受け入れられているのかを、論理的に理解することを助けてくれます。これによって、他社ブランドと比べた自社ブランドの立ち位置の理解を深めることができ、今後ブランドをどういった方向性で売り出していけば良いかを考える助けとなります。

またラダリングは評価対象の具体的な部分にも言及するため、評価対象のどのような特徴が顧客に好ましく思われているのかや、評価対象を構成する鍵と見なされている要素を知ることもできます。評価対象となる自社ブランド・商品に対する消費者の考えを把握することで、「これだけは外せない」という部分を維持したブランド拡張や新商品展開が可能となるでしょう。また不要な訴求を除くことで、「〇〇といえばこの商品」といった想起の強化を図ることもできます。

以上のように、ラダリングによって自社ブランド・商品のどのような点が評価されているのか、どんな印象を持たれているのかを知ることは、今後のブランド戦略を考える上での良いヒントとなるでしょう。また消費者の話を聞く中で、消費者がどんな要素に反応しているのかを知れば、より効果的な訴求を生み出すきっかけとなる可能性があります。

ラダリング実施時の注意点

上記のように適切に実施できれば消費者理解の力強い助けになるラダリングですが、行う上ではいくつか注意点があります。

  1. インタビュー対象者は評価対象に詳しい人を選ぶ
  2. インタビュー対象者にバイアスがかからない聞き方をする
  3. インタビュー内容の解釈はフラットな視点で行う

1. インタビュー対象者は評価対象に詳しい人を選ぶ

インタビュー対象者の価値構造を調べるには前述のようにラダーアップ・ラダーダウンを駆使する必要がありますが、基本的にラダーアップ質問は、対象者にとって少々ハードルが高いです。特に嗜好品などの場合では、「なぜいいのか」と聞かれてハキハキと論理的に答えられる方はなかなか少ないです。

例えばお菓子について、対象者が「美味しいから好き」と答えたとしましょう。ラダーアップを行うのであればここで、「美味しいとあなたにとってどんな点で良いのですか?」と聞くことになります。なかなか言語化が難しそうではないでしょうか。もしも相手が答えに窮している場合には、他の価値判断が軸となる質問に移ることが望ましいです。相手が言葉に詰まった状態で無理に回答を引き出そうとすると、対象者が思ってもいないことを無理に回答してしまう原因になります。

このように、ラダーアップはより抽象的な回答を聞き出すという性質上、評価対象のことをよく知っており関わりの深い人でないと、自分自身にとっての評価対象の位置付けを話せません。だからこそ、調査の前のスクリーニングの段階で「この人は評価対象について自分の言葉でしっかりと語ってくれそうだな」という人に目星をつけ、リクルートする必要があります。

2. インタビュー対象者にバイアスがかからない聞き方をする

ラダリングでは人間の認知構造を前提としています。人間は外的刺激に対して、まずそれを知覚し、次に感情・印象・記憶といった要素が呼び起こされ、最後に良い・悪いといった心理的な評価を下します。しかし、実際に質問をする際は、逆にできるだけ抽象的な問いから入ることが望ましいです。具体例から入ってしまうと、対象者はその後の質問で、無意識のうちにそれを前提として回答してしまう可能性があるからです。また認知構造の観点からも、例えば「この商品を良いと思いますか?」と評価にいきなり言及するのではなく、「この商品をどう思いますか?」といった曖昧な問いかけから始めることで、対象者自身が下した評価によるバイアスに囚われない回答が期待できます。

3. インタビュー内容の解釈はフラットな視点で行う

全ての定性調査に共通することですが、解釈は全てインタビューを聞いている人たちに委ねられています。同じ言葉であっても、受け取った人によって解釈は異なるかもしれません。それがどのような文脈で発せられた言葉で、対象者にとってどのような意味を持つのかを明らかにするには、調査後のデブリーフィングで関係者同士しっかりと意見を交換し合い、認識をすり合わせておく必要があるでしょう。特にラダリングでは自分とは異なる対象者の価値構造の理解を、対象者の発言をもとに行っていきます。自分達の都合のいい理解に終始してしまわないためにも、デブリーフィング時は異論や反論が言いやすい雰囲気作りも大切です。

終わりに

今回はインタビュー手法の一つであるラダリングを取り上げ、その考え方とマーケティング上の意義についてお話ししました。実際にインタビューを行うとなると対象者の方への聞き方ややりとりにも配慮する必要があります。インタビュー自体はモデレーターにお任せして自分達は聞くに徹する、という場合もあるかと思いますが、その際もいくつか聞く姿勢のポイントがあります。詳しくはリンク先のコラムを読んでみてください。

ラダリングを適切に行うことで、断片的にでも消費者の頭の中を覗くことができます。ぜひラダリングで得られた消費者理解をマーケティングに活かしていってください!

ホジョセンメルマガに登録しませんか?

ホジョセンメルマガは、マーケティングのご質問にお答えしたり、マーケティングコラムをお届けしたり、と毎週たったの5分で読めるマーケティング情報を、毎週水曜日にお送りしています。

ホジョセンメルマガに登録