コラム
みなさま、マーケティングリサーチをうまく使えていますか。
「リサーチ結果は上がってくるけれど『どれどれ、ふーん』と見ているだけ」
「リサーチをやったからって特に何も前に進むわけじゃないし、調査って何の役に立つの?」
と感じている方、それはもったいない調査をやっているかもしれません。
本コラムは、「リサーチをうまく使えない・使い方がわからない」もしくは「こんなときはリサーチをするべきなんだろうか」とお悩みの方へ、無駄なリサーチをしない・リサーチを無駄にしないために是非知っておいていただきたいことをまとめました。内容のほとんどは、小難しいマニアックなリサーチのHOW TOではなく、リサーチの概念やリサーチを使うときの心得(のようなもの)についてです。リサーチのノウハウやテクニックは知らなくても、リサーチについて正しく理解できていれば「調査をやったけれど、どう使えば良いかわからない」という本末転倒な事態の大部分は防げるのです!
目次
マーケティングリサーチについて経験が少ない、マーケティングリサーチについてよく知らない、という人ほどリサーチに過剰な期待を抱いてしまう傾向があるようです。
「新しい商品のアイデアは消費者に聞けば出てくる!」
「カテゴリーの潜在ニーズはリサーチをすれば見つけられる!」
といった具合です。残念ながらというか、マーケティングリサーチは答えを教えてくれる魔法のツールではありません。リサーチで得られるのは、消費者の行動や体験であったり、それらを通して考えていること・感じていること、今現在の価値観のなかで判断できること、といった一次情報です。この情報をもとに、企業が新商品のアイデアを考える、企業がカテゴリーの潜在ニーズを見出だすのです。
売り上げを伸ばしたい!という目的に対して、どのような打ち手があるのでしょうか。制約がなければ、客数が増えれば、認知が上がれば、客単価が上がれば、頻度が上がれば…など、様々に挙げられます。これだけでは何をどこからやるべきか困ってしまいますが、現実にはそんなことはなく、有効な打ち手を絞るためにビジネスの課題を特定し、意思決定を行っているはずです。
ビジネスを理解する、課題を特定する、打ち手を決定する、という流れの中の思考や判断は、何かしらの情報をもとに行います。情報は、文献を読んで得られるかもしれませんし研究論文かもしれません。国勢調査、家計調査のようなデータを読み解いて得られることかもしれません。そういった情報の一つに、マーケティングリサーチからの得られる情報があります。答えを導くため、消費者に聞かないとわからないことがある。そういう時が、マーケティングリサーチの出番です。
マーケティングリサーチは、自分たちのビジネスの課題や困りごとの解決に役に立つ情報を得るために行います。もし、リサーチをして情報を得たとしても、解決のための施策の中身も実行判断も変わらないのであれば、マーケティングリサーチはしなくても構いません。困りごとにもとづかない調査、施策に影響しない調査は本来不要なのです。
つまり、マーケティングリサーチをちゃんとワークさせるためには、自分たちの困りごとに対して何が役立つ情報なのか? 何がわからなくて、それがわかったら次の行動にどう活かせるのか? をおさえておくことが欠かせないのです(後半でもう少し詳しく触れます)。
リサーチを実施するときの目的は、大きく「知りたい」と「確認したい」の2つに分かれます。
「知りたい」は、リサーチの対象について理解を深めることが調査の目的となるケースです。ビジネスとしては、この理解をもとに仮説をつくることが目的となります。たとえば、ターゲットの人となりについて理解を深め、ターゲットのニーズを解決する商品コンセプト(仮説)を練り・固める、といった流れです。
人の理解を目的とするとき、正しい理解をサポートするための比較軸を設定する、また、非傾聴ターゲットを相手にしない、など、リサーチとしていくつかの注意すべき点があります。
一方、「確認したい」は、自分たちがつくりあげた仮説を検証するのが調査の目的です。この検証結果をもとに、ビジネスとしては何かしらの意思決定を行うことを目的とします。先の「知りたい」の例の続きで言えば、練り上げた商品コンセプトが消費者にどのくらい受けるのかを測り、その結果が商品の目標額に届くかどうかを確認してこのコンセプトで進めるべきかどうかを判断をします。
リサーチの目的によっておおむね調査の手法も絞られます。「知りたい」場合は主に質的な情報をもとに議論することになるので、質的情報を集められるインタビューや観察といった手法をとる定性調査、「確認したい」場合は量的な情報をもとに議論するケースが多いので、量的な情報を集めるアンケートなどの定量調査を実施します。目的に応じて手法を選ぶため、定量調査が定性調査を代替できる、もしくはその逆、はほとんどありません。
消費者の情報は「行動」「意識」「潜在意識」に大別されますが、マーケティングリサーチで集められる情報は「行動」と「意識」です。
行動は、誰が、いつ・どこで・何を・だれと・どのように、といった5W1Hで分解される、消費者に起きている事象です。現実に起きていることで、消費者が意識的に行っていること・無意識で行っていること含めて知ることは可能です。
意識は、消費者が今の自分の生活の中で感じていること・考えていること、何か刺激をあたえた時の反応(たとえば商品コンセプトを読ませてみるなど)、といった情報です。行動とは違い、知ることができるのは消費者が明確に認識していることだけです。当然ですね、認識していないことは答えようがありませんから。
注意しなくてはいけないのが、意識していなくても答えさせることができてしまう、という点です。自分の中に答えがなくても質問に反応することはできるので、「あなたは何故◯◯を買わないのですか?」と聞かれれば、買わない理由なんて考えたことがなくても「うーん…高いから」と反応できてしまうのです。多種多様にある選択肢の一つ一つについて、果たして消費者は買わない理由を意識しているのでしょうか?
潜在意識にあたる、カテゴリーの潜在ニーズ、消費者のインサイト(消費者の現在の行動に変化を促すための、消費者にとって新しい気付きとなる情報)は、消費者が答えられることではありませんからリサーチでは得られません。潜在ニーズもインサイトも、リサーチで得られた情報をマーケターが自身の視点と知見のもとに解釈し思考して、発見されるものです。
リサーチはビジネスの困りごとと解決する施策の橋渡しをするもの、とお話ししました。ですので、リサーチの前に、課題が設定されている必要があります。そこが明確であれば、課題解決に向けてリサーチ要/不要の判断とともにリサーチの目的が決まり、どんな情報をどう集めるべきか、というリサーチの立て付けを考えるステップに進みます。
この課題設定では次の2点を考えましょう。
「商品が売れない」というのは一見課題のようにも見えますが、このままでは何をするべきか考えるにはまだ大きすぎます。課題ではなく現象のレベルです。まずはこの現象を分解し、売れない現象を生み出した要素や、自分たちのビジネスモデルを決める要素のどこで問題が起きているのかを特定しましょう。
仮に、認知されているが購入されていないという状況が特定されたとすれば、それに対して、ブランドイメージが悪い、商品が高い、商品のパッケージが悪い、など、さまざまな仮説が生まれます。仮説のうち、調査でもって確かめられること、または、改善するためのヒントを調査で得られるか?を考えることで、知るべきことが具体的になり、調査課題につながっていきます。
打ち手の方向性をおさえておくことは、実効性のために重要です。たとえば、認知が低いという困りごとに対して、認知をあげるため広告宣伝活動を行うのは一つの打ち手です。ですが、広告予算がない!としたらどうでしょう。単純に、使えるメディアは自社のホームページやSNSなどに限られますね。PRに比重をおいて検討する必要性も上がってくるかもしれません。このことを知らずに、消費者がどのようなメディアで情報収集をおこなっているのだろう、とメディア利用について広く調査をかけたとしたら、調査結果の半分くらいは使いどころがなくなってしまうのです。もったいない。
課題設定で意識すべきポイントをまとめておきます。
ホジョセンはマーケティングリサーチに関して定性調査・定量調査を問わず豊富な経験をもち、数多くのプロジェクトで調査からアクションを導いてきました。意思決定やアクションに寄与することを念頭に、厳密な調査設計を行います。ホジョセンのマーケティングコンサルティングでは、「調査をしたけど何も変わらなかった」ということが起こらない「使える調査」にもとづいた分析・提案をご提供しています。
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