アンケート調査に「どちらともいえない」は必要? 中立的尺度の長短

小田切 巴

このタイトルに引かれて記事を開かれた方はなかなかのマニアックであると推察します(笑)。どちらともいえない。という方でもこの記事を読んでいただければ調査票の書き方についてマニアックになること間違いなしです! 今回は、普通のアンケート調査の書き方マニュアルでは触れられない、もしくはさらっとしか書いていない、「どちらともいえない」の回答尺度について入れた方がいいの?入れない方がいいの?の疑問にお答えしたいと思います。

リッカート尺度とは

そもそも、この「どちらともいえない」はリッカート尺度といわれる、アメリカの心理学者によって開発された心理的尺度に含まれる選択肢の1つです。リッカート尺度は、「はい/いいえ」の二択では答えられない、価値観などの度合いを聴取する際に使われます。満足度調査や社会調査で広く使われており、アンケート調査といえばこれ、というような尺度です。例えば、

あなたは、次の考えについてどう思いますか。「テレワークはこれからも推進していくべき」


  1. 非常にそう思う
  2. ややそう思う
  3. どちらともいえない
  4. あまりそう思わない
  5. 全くそう思わない

上記の例では5件法、真ん中に「どちらともいえない」の中立的尺度をおいていますが、調査によってこの「どちらともいえない」を入れず、4件法の選択肢としている場合もあります。または6件法、7件法、それ以上でも同様のケースが見られます。マーケティング調査の教科書では回答をどちらかに強制したいときには中立的選択肢なしで実施すべし、とさらっと書いてあったりしますが、本当にそれだけで判断して良いのでしょうか?

中立的尺度のメリット・デメリット

実は他にも考えるべき大事なことがいくつかあります。事例を元にみていきましょう。以下は2020年4月20日〜24日までの期間に実際に行われたオンライン調査の結果をグラフ化したものです。

出所: 株式会社マツリカの調査データよりホジョセンが作成

見事な山形になっていますが、実は調査後にこういったデータが上がってきて活用する際に困った、という声は結構耳にします。まず問題点から見ていきましょう。

中立的尺度のデメリット

回答の集中

上記のデータは真ん中に「どちらともいえない」の中立的尺度をおいたリッカート尺度と言えますが、回答の分布を見ると、「どちらともいえない」に半数以上の回答(54.7%)が集中しています。あまりにも中立的尺度の回答が多いため、「上がった」、「下がった」といった分かりやすい結論は得られにくくなります。もちろん「どちらともいえない」が一番多い、というのが1つの結論である可能性もあります。

分析のしづらさ

ではどういった要素がリモートワークにおける生産性に貢献しているのか、さらに分析を行いたいとすると、そもそもデータが「どちらともいえない」に集中してしまっているため、他の要素との相関や因果関係を考察する上でも非常に困難になります。分析は常に値が様々な条件でどう変化していくかを評価するので、回答が集中している(分散が小さい)状態ではできる分析が非常に限られてしまいます。

厳密には、リッカート尺度は順序尺度であり、通常の相関関係(ピアソン)ではなく、順序尺度の相関係数(スピアマン)を使う必要がありますが、実際には間隔尺度として扱う場合もあります。

解釈の難しさ

また、「どちらともいえない」の中には真に中立的立場を示す回答もあれば、回答できない、わからないという意味で「どちらともいえない」を回答していることも考えられます。この点について、選択肢に「どちらともいえない」と「わからない」の両方が提示されている定点調査において、対応分析や回帰分析を行った研究では、双方が類似した意味を持っており、同様の要因構造を持っていることが分かっています(石田,2016)。上記の例でいえば、本当に生産性について「どちらともいえない(≒変わらない)」と感じて回答しているのか、そもそも生産性を自身で判断できない、わからないと感じているのか、様々な解釈の可能性が考えられます。

では「どちらともいえない」は入れない方がいいじゃないか、というとそうでもありません。

中立的尺度のメリット

回答のしやすさ

回答者にとって答えやすいかどうかというのも調査票を作る上で重要なポイントになります。もし、自身が本当に「どちらともいえない」中立的立場なのに、回答の選択肢がどちらか両極を選択させるものだったとしたらどうでしょうか、心理的負担が大きく、つい適当に回答してしまったり、途中でアンケート自体やめてしまうことも考えられます。

真に中立の立場の把握

今回のリモートワークに関するアンケートでの「どちらともいえない」は実は効率が上がる部分もあれば、下がる部分もある、という意味での真の「どちらともいえない」かもしれません。

「日本における定住外国人の受け入れ」についてのアンケート結果を元に行った分析では、回帰分析の結果、「どちらともいえない」と回答した人は「政治的関心」が高いほど低い、つまり政治的無関心が「どちらともいえない」の選択につながっており、真に中立的な立場である可能性が高いと考えられます(石田,2016)

中立的尺度あり、なしのメリット・デメリットをまとめると以下のようになります。

中立的尺度あり中立的尺度なし
メリット
  • 回答者負担がより少ない
  • 真に中立的な回答を反映した結果となる
  • 「同意/非同意」の結論が得られやすい
  • 「どちらもいえない」に回答が集中するリスクを避けられる※2
    デメリット
    • 中立的尺度に回答が集中し、結果が解釈しにくくなる可能性
    • 回答が集中することで分散が小さくなり※1、統計解析がしづらくなるリスクがある
    • 「どちらともいえない」に含まれる意図が不明
    • 中立的な回答者に対し強制的に態度を選択させることになる
    • 回答者負担がより高く、脱落のリスクがある

    ※1 実際には分散は選択肢の数によって影響されるので、中立的尺度のあり・なしだけで分散が決まるものではありません。

    ※2 その他の選択肢に回答が集中するリスクはあります。

    実は研究者でも意見が分かれています

    研究者の間でもこうすべき、という一貫したガイドラインはありません。

    大学生を対象に、中間的指標あり・なしで調査を実施し、回答傾向を比べた研究では、あり・なしで回答結果の分布は大きく違っており、「どちらともいえない」は真に中立的立場を反映しているとしています(Levin and Miller,2005)。

    前述の「どちらともいえない」と「わからない」の違いの研究によると、これら2つの回答は、対応分析の結果、賛成(そう思う、どちらかといえばそう思う)と反対(どちらかといえばそう思わない、そう思わない)の選択肢のほぼ中間、馬蹄形の底に位置しており、流動的な回答の結果とは言えないとしています(石田,2016)。

    郵送調査による研究では、実態を尋ねる質問や、調査相手が日ごろ考えているような質問では、中間的選択肢の回答率が低くなる傾向があり、中間的選択肢を提示する(しない)と、それ以外の選択肢の回答率が低く(高く)なるが、両極の選択肢のバランスは変わらないとしています(村田・小野寺,2010)。

    また、この「どちらともいえない」の議論は、実は国民性(文化的背景)も大きく影響しています。過去の研究では、アジアの集合主義の国では、アメリカ、ヨーロッパのような個人主義の国よりも極端な意見の表明を避ける傾向にあるため、より「どちらともいえない」が選ばれやすいことが分かっています(Chen et al.,1995)。

    例えば、昨今のコロナの状況について、各国でのアンケート調査を比較した記事などが多く出回っています。同じ質問でも、単純に日本人の回答結果とアメリカ人の回答結果を比較して良いのでしょうか。データを解釈する際には、こういった国民性や文化による回答傾向の違いも頭に入れつつ見ていくことが重要です。

    結局「どちらともいえない」は入れるべき?入れないべき ?

    ずるい、と言われるかもしれませんが、上記でみてきた通り、どちらともいえません。それぞれのメリット、デメリットを把握した上で、ホジョセンはこう考えます。

    「どちらともいえない」を入れるかどうかは、分析上「どちらともいえない」に意味があるかどうかで判断する。

    前提として、政治・宗教、社会的に論争になるような、賛否を保留することが不自然でない事柄には中立的尺度を設ける必要があります。それ以外のケースで、分析上「どちらともいえない」を意味のあるデータポイントとして使わないのであれば、極力入れない方が結果の解釈のしやすさ、統計解析のしやすさの観点からおすすめです。以下のTipsもぜひ参考にしてください。

    • 対象者の回答ストレスや不真面目回答があることを前提として、サンプルバッファーを設ける、言い換え設問のような矛盾回答をチェックするための設問を作る、など対策をしておく
    • 1つの調査票の中で中立的尺度のあり・なしはなるべく統一する(明確に質問の流れや内容が異なる場合は除く)
    • 国をまたいだ調査を実施する時は「どちらともいえない」がより選ばれやすい国とそうでない国があることに留意する

    そもそも、分析に耐えられないほど特定の選択肢(中立的尺度にかかわらず)に回答が集中する場合、質問自体に問題があると考えた方が良いでしょう。質問の意図が伝わっているか、選択肢の設計に問題はないか、確認してみましょう。

    参考文献


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