コラム

本質的なROIの向上〜消費者理解による基礎固めが大事

マーケのヒント
執筆
柳田 満里奈
公開日
2025年2月19日
更新日
2025年2月19日

ROIはただの指標に留まらず、会社のビジネスを見直す力があります。ROIの議論は、よくある「メディア予算の最適化」にとどまるものではありません。今回は、ホジョセンが考えるROIのスコープ、それを踏まえてROI向上のために会社として何をすべきか、についてお話しします。

3つのドライバーでROIを向上させる

ホジョセンは、マーケティングにおいて、ROIの考え方のスコープが小さいのではないか?という問題提起をしてきました。マーケティング文脈におけるROIについての議論は「メディア予算の最適化」に関するものばかりの印象があるのですが、それは本質的な議論ではありません。ROIは投資に対してどれくらいのリターンがあるかという観点での議論になるのですが、本質的なROIの向上というのは消費者をできるだけ深く理解して、困っていることや望んでいることを満たす、あるいはインサイトをしっかりと刺激をすることによって投資に対する反応が上がることで達成されるものです。消費者が望んでいること、困っていることへの理解やサービスの提供をせずにメディア予算の最適化でROIを上げていくのは小手先の対応です。

ROIには3つのドライバーがあります。ROIを上げるために正しいことを行っているかを考える「効果」、そのやり方が正しいのかを考える「効率」、そして資源配分が正しいのかを考える「適量」です。メディア配分の最適化はこの資源配分にばかり注目していることになりますが、資源配分だけでは根本的なROIの改善はできません。追求すべきは消費者が望んでいることを提供していくことであり、ROIを上げるにあたってやってることが正しいか?やり方が正しいか?という議論があまりなされていないように思います。

ROIドライバーピラミッド

例えば、購入意向を上げることはROIを上げることに繋がるはずなのに、そうした活動はROIを上げる活動として認識されていない事が多いのではないでしょうか。コンセプトテストの結果が悪かったにもかかわらずコンセプトのブラッシュアップをしないで上市してしまうことがある一方で、メディア配分でROIを上げるために最適配分を模索するというのは一貫性がないでしょう。消費者にとっての魅力を上げることなくテクニックでROIを上げようとすると、ROI改善は途端につまらない仕事になってしまいます。資源配分の最適化はそのワンポイントで終わりますが、効果・効率において知見をためていくほうがロングタームでROIを改善していけます。

加えて、メディア予算の最適化は難しいです。これも、メディア配分だけでROIを上げることをおすすめしない理由の一つです。

テレビCMは同じメッセージであってもクリエイティブによってリターンが異なり、それに伴ってROIも大きく変わるからです。メディアの配分よりもクリエイティブの質の方がROIに対する影響が大きく、結果として予算の最適化の基準となる想定ROIを算出することが難しくなります。将来的にどのような資源配分をするかを考えるときに、テレビCMのクリエイティブごとの平均値と分散を考えたうえでROIの最適化をするという考え方もありますが、この場合、分散の情報を手に入れる必要があり手間もかかってしまいます。平均値や分散の情報入手に力を入れることに時間を使うのであれば、平均値を上げること(購入意向を上げたりコンセプトのブラッシュアップをしたりして消費者にとっての魅力度を上げること)に時間をかけたい…そう思ってしまいます。

知見の蓄積で、ROIを向上させる組織文化をつくる

ホジョセンでは、「ROIは文化だ」という言い方をよくしています。

これは、消費者に望まれるものや価値を伝えやすいメディアの使い方などについて知見をためていくことで、ROIを向上させていく活動を企業文化として根付かせることが重要だということです。1つ1つの商品やサービス、コミュニケーションがより消費者に喜ばれるものになれば、ROIは必然的に上がっていきます。

ROI向上のロードマップ

ROIを上げるうえで重要なのはビジネスドライバー、つまりビジネス上の目標を達成するための重要なポイントを理解することであり、ビジネスドライバーに無関係なことをやっても組織には根付きません。一つひとつのマーケティング活動の精度を高めることで、消費者に喜んでもらえることも多くなるでしょう。その状態でメディア配分を考えるのはもちろん一つの手法としてありですが、消費者にとっての価値を高めるという活動を経ることなくメディア配分でROIを高めるのは望ましくないと考えます。日々変化する消費者への知見を集め、それを組織に溜めていくことがROI向上の土台となるのではないでしょうか。

このように考えると、ROIを向上させていくための活動はマーケティング活動そのものといえるでしょう。そして、消費者の期待に応えるビジネスプロセスを構築することで、長期的なROIの改善を目指すことができるのではないでしょうか。ROIカルチャーについては、「組織的課題としてのROI/ROAS向上」でも説明しているので、併せて見ていただけると幸いです。

ROI計算の定義を見落としてはいけない

ROIを向上させる活動を組織文化として根付かせることが大事というお話をしましたが、そのためにはROIの定義に関してチーム全員が同じ認識を持っておくべきだと考えます。

事実、マーケティング部門とファイナンス部門でROIの定義が異なっていたり、自社と外部の協力企業さまで定義が異なっていたりするケースは珍しくありません。ちなみに、ホジョセンでも過去にクライアントの方とROIについて話す中で、計算が合わなかった前例がありました。我々が無意識のうちに適用していたROIの計算方法と、クライアント企業での計算方法が異なったのです。これでは議論になりません。

一般的には売上総利益や営業利益などの利益ベースで計算することが多いROIですが、マーケティングのROIは、売上やNOSを用いてROIを計算することも珍しくないと思われます。我々のような支援業者はクライアントから具体的な財務データをもらえないことも珍しくないため、必然的に売上で計算するケースが多くなります(売上ベースのROI計算のことをROAS: Return On Advertising Spendと呼ぶことが多くなってきました)。

部門や会社によって定義が異なりがちなROIですが、何を基準に考えるかがとても重要です。「ROIが◯%向上しました!」という記述を目にすると、一見すごい結果のように見えますが、何をベースに考えているかで話が大きく変わってきます。

例として「ある年に、マーケティング活動に100円使ったら110円の粗利として戻ってきた」場合を想定してみましょう。単純に計算をすると、売上総利益(粗利)ベースに考えるとROIは1.1に、営業利益ベースで考えるとROIは0.1になります。このとき、「翌年には、100円使ったら120円の粗利として戻ってきた」という条件を加えると、営業利益ベースではROIが1年で0.1から0.2に上がったことになり、ROIが2倍になってすごい!と感じます。一方で、売上総利益ベースでは1.1から1.2への変化であり、ROIは10%も向上していないことになります。同じROIについて議論していても、実は全く異なる土俵で議論しているという可能性があるのです。

余談ですが、営業利益ベースのROIの計算にも、マーケティング関連費用のみを控除した利益額(上記でいうところの110-100=10円)で考える流派と、よりリアルな営業利益ベース、つまりその他の費用もきちんと控除した利益額(先ほどの10円からさらに販管費を引いていく)で計算することもあります。

以前、当社の代表の髙橋がTwitter(現 X)でこんなアンケートを実施しました。代表性云々の議論はいったんわきに置くとして、約40%の人は売上総利益ベースで、約35%の人は営業利益ベースで計算しているようです。

そのため、情報を発信する側は、何を指標としてROIを考えたかをきちんと伝えるべきだと考えますし、情報を受け取る側も、どういう計算式のROIの議論をしているのかを見抜く必要があります。

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