コラム

強い商品コンセプトを作るには

マーケのヒント
執筆
足立 理恵
公開日
2024年11月13日
更新日
2024年11月13日

消費者マーケティングの文脈では、広告も商品も消費者コミュニケーションを考えるフレームとして挙げられるWHO/WHAT/HOW(誰に/何を/どう伝えるか)にもとづいて作られます。

企業(もしくはブランド単位かもしれません)が世に出すすべての創作物はコミュニケーションの手段であり、コミュニケーションのフレームのHOWにあたります。消費者が目にする・耳にする・体験するものは、広告も商品も店舗も接客も、すべてWHATを伝えるための手段です。商品はWHATだと誤解をされるケースもありますが、商品はWHATを実現する媒体であり伝える手段にすぎません。

今回お話しする「コンセプト」はWHATを定義するものです。これが魅力的でなければ、商品も広告も本質的に魅力的なものにはなりません。商品も含めたコミュニケーションがうまくいかない理由は

  1. そもそもWHO/WHATが検討されていない
  2. HOWを作る段でWHO/WHATが忘れさられる
  3. WHATが魅力的でない

というのがほとんどで、(2. のケースはさておき)HOWの失敗はその前段階であるWHATに問題があることが多いのです。

昨今のマーケットでの戦いはコト売り勝負が中心になり、より魅力的な・強いコンセプトをつくれるかどうかはマーケットでの成功を左右する要素の一つになりました。コンセプトは疎かにはできません。

コンセプトが重要な訳

モノ売りで成功するのは難しい

昨今のマーケットでの戦いはコト売り勝負が中心になっている、という話をおさらいしておきます。

モノ売りが成立する、「よいモノを作れば売れる」というモノのスペックだけで消費者が購入してくれる状況であれば、コンセプトはさほど重要ではありません。消費者が重要と認識している要素で突出した性能を提供できる、たとえば「3分で白米5合が炊ける炊飯器」があるとしたら、消費者はそれだけで商品を選んでくれますからコンセプトはそこまで重要ではありません。

ところが、モノ売りで生き残り続けるのは相当に大変です。

1つの商品だけが抜きんでた機能を持ち続けるということはあまりなく、比較的早いスピードで追随され、平準化していきます(これはモノ売りの定めであり、技術開発に長けた日本では尚更かもしれません)。

これを繰り返していくと、商品カテゴリとして機能・性能のレベルはどんどん上がっていくわけですが、商品間の差が消費者が認識できる・満足できる範囲を超えてしまうと、消費者にはどれでもOKに見えてしまうわけです(ひと昔前のデジカメや携帯電話のカメラの画素数の競争などがそうですね)。

消費者が機能で商品を選択しなくなった時点で、競争は別の軸に変わらざるを得ず、それが消費者の生活における商品の意味付けのもと価値を売る(=コト売り)、ブランドで売る(ためにブランドを育てる)という考え方へのシフトが起きたというわけです。

コト売りとはなんなのか

とはいえ、安易なシフトで「なんちゃってコト売り」をしても成功はしません。

「画素数がUPしました! なので、今までより鮮明に美しい写真を取れるようになります」「最新の研究成果である保湿成分を配合し、従来よりお肌の潤いを実感いただけます」というのは、コト売りではありません。理由は単純で、モノのことしか言っていないからです。

このメッセージから消費者が勝手に自分ごと化してくれるほど、消費者は一つ一つの商品に時間をかけて向き合ってくれるわけではありません。

“People don’t want to buy a quarter-inch drill, they want a quarter-inch hole.” – Theodore Levitt

人はドリルが欲しいのではない。穴を開けたいだけなのだ。 – セオドア・レビット

マーケティング領域だけでなく有名なこの言葉のとおり、消費者が求めているのはより優れたカメラや化粧品ではなく、「大事な思い出(たとえば成長期の子どもの豊かな表情)はきれいに残したい」「肌に自信が出て気持ちが明るくなる、お化粧やおしゃれが楽しくなる」を満たすことです。消費者の目の前に提示された商品はこれらを満たす手段の一つにすぎません。

モノ売りが通用しなくなっているように、差がわからないと思っている人、現時点でニーズがそこそこ満たされ満足している人に、これが欲しいと思ってもらうことがコト売りには求められます。

消費者が接触している短い時間で、ぼんやりとした関係から自分たちを評価してもらうためにも、美しい写真を取れること、肌の潤いが高まることで消費者の何が満たされるのか、(それをダイレクトに消費者に伝えるかどうかはさておき)商品の作り手は消費者の生活文脈にまで入り込んで理解する必要があるのです。

コンセプトづくりの考え方

コンセプトとは?

「商品の魅力・価値を消費者に伝え、購入に至る態度変容を起こさせるためのコミュニケーションの指針」として、コンセプトは次の3つの要素を含む短い文章として表現されます。

  • 便益:消費者にどんな良いことがもたらされるか
  • RTB(Reaon To Believe):便益を信じられる根拠。ブランドがもつ資産のなかで提供できること
  • コンテクスト:消費者インサイトをクリックする、便益の重要度を上げるような周辺情報や刺激

この3つで、問題を認識させる・意識を高める(コンテクスト)→問題の解決策(便益)を提示する→それを信じてもらう(RTB)、という流れで説明するのが王道で、たとえば、少し前に放映されていたカビキラーのCMではどんなコンセプトになるかというと…

気がつくとあらわれるしつこいカビ、見るとがっかりしますよね。カビを取り去ること、あきらめていませんか。カビキラーは強力な浸透力でカビの根まで分解するので、30日間カビとは無縁。おうちのきれいが長持ちします。

のようになります(CMから想像しました)。「気がつくとあらわれるしつこいカビ、見るとがっかりしますよね。カビを取り去ること、あきらめていませんか」がコンテクスト、「強力な浸透力でカビの根まで分解する」がRTB、「30日間カビとは無縁。おうちのきれいが長持ちします」が便益です。

コンセプトづくりの流れ

先のポイントをおさえたコンセプトづくりのプロセスを紹介すると以下のような流れになります。

  1. ブランドの周辺で、ターゲットの現状を整理する
  2. ターゲットもしくは商品カテゴリにもとづいてテーマを決める
  3. テーマについてターゲットの現状と将来像を定め、ブランドとしての提案(便益)を固める
  4. 便益の根拠となるRTBを考える
  5. 便益に関心が向くようなコンテクストを考える
  6. 提案内容、RTB、コンテクストをつないで一貫性のある文章にする

これで、ひとつのコンセプト案が出来上がります。同じテーマ・現状と将来像でも、提案の中身が違えばことなるコンセプトができます。もちろん、テーマが違えば、全く違うコンセプトになるでしょう。これをいくつも作ってみて、そのなかからより魅力的なものを選抜し、コンセプトを決定します。

1. ブランドの周辺でターゲットの現状を整理する

ブランドの周辺、というのは「ブランドが関わっていけそうな範囲で」という意味ですが、機会を広げたい・接点を増やしたいという目的があれば、今の範囲に限らず広げて考えて構いません。玩具ブランドがターゲットの美容についての考えを洗い出しても発展させるのは少し難しそうですが、生活上の健康(脳トレや体力増進)については関われそうな気がしますね。

この範囲で、ターゲットが何を感じ考えているのか、どのような行動をとっているか、理解していることを整理しましょう。ペルソナカスタマージャーニーなどのフレームを活用しながら整理できるといいですね。

2. ターゲットもしくは商品カテゴリにもとづいてテーマを決める

テーマのとりかたは、直球で商品カテゴリについて、もしくは、カテゴリが関わる消費者生活シーンや活動について、どちらに寄せても構いません。商品ありきのコンセプトづくりでなければ、特に強い制約をかけることもないので、消費者の生活や活動をテーマにする方がアイデアを広く考えることができます。逆に、商品の縛りが強い場合は、ある程度狭めたテーマで考える方が現実的に落としやすいかと思います。

現状と将来像については、今の消費者の現状の認識や行動を、どのように変えたいか(=将来像)、どう変えるのか(=提案する便益)がセットになるように考えます。

3. ターゲットの現状と将来像を定め、便益を固める

ここでのアイデアの広げ方も特に手法が決まっているわけではありませんが、将棋をテーマに一例を上げてみます。

まずは将棋について、消費者が思うことを、良いことも悪いことも、書き出してみます。将棋に関連して・将棋のまわりでですと、地味、頭を使う、老人向け、不健康、勉強時間が減る….など、たくさんでそうですね。これらを視点をずらしてポジティブな方向に変化させます。たとえば、老人向け→孫と楽しめる、不健康→病弱でもできる、勉強時間が減る→勉強しなくても賢くなれる、といった具合です。

一つ一つは具体例なのでこれらをグルーピングするなどし、ある程度抽象化しつつ現状→将来像の流れを作るとよいでしょう。この変化を促すために、ブランドとしてどんな提案ができるかを案出しします。

また、便益を考えるときには、ターゲットにとって良いこととブランドを紐づけられるか(自分たちの強みをいかせるか?)、ブランドの方針に一致しているか、注意しながら進めましょう。ブランドから外れるコミュニケーションは原則として考えません。

4. RTBを考える

商品の特性や使われるテクノロジーや実験結果のほか、口コミや専門家の評価といった第三者のお墨付きなど、もたらされる便益を信じるに足ると消費者が納得できる情報をピックアップします。景表法や薬機法に注意しつつ、消費者に提示できるものを用意します。

5. コンテクストを考える

便益の重要度をあげるために、現状の認識を壊すような情報を与えます。便益の売りの強さを左右する、非常に重要な情報です。便益に関連して、消費者が信じていること・無意識に認めていることをリストアップし、それを否定するような情報をコンテクストのアテとします。コンテクストと便益にうまくつながるように、ストーリーを考えましょう。

6. 便益、RTB、コンテクストをつないで文章にまとめる

ここで作るコンセプト自体は消費者に直接見せるものではないので、キャッチなー文章や綺麗な文章を目指す必要はありません。ストーリーとして繋がること、内容が一貫することに注意して文章にまとめます。内容が繋がらないようでれば、便益を練り直す、もしくはRTBやコンテクストを見直すなど、3〜6のプロセスを行き来してコンセプトと固めます。

テーマを決めるにも、どんな便益を提供するのかを決めるにも、考える際のインプットになるのは「ターゲットはどんなこと考え、行動するのか」「ブランドはどうありたいのか」です。もし、ターゲットについてわからない、ブランドの定義があいまいで考えがまとまらない…という場合は、ターゲットを決める・理解する、「ブランドってこうだよね」を明確にすることを先に取り組むべきでしょう。コンセプトの強さは、消費者をどれだけ動かすことができるかです。消費者の視点を欠いて強いコンセプトはできませんし、ブランドとしての軸がなければ行き当たりばったりなコミュニケーションになってしまいます。

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ホジョセンでは商品・サービス開発のコンサルティングサービスも行っています。そのなかで、コンセプトづくりをクライアントさまとホジョセンとのワークショップ形式でさせていただくこともございます。企業さまの特性・ご要望にあわせたオーダメイドでのワークショップ設計・ファシリテーションサービスをご提供しています。お気軽にお問い合わせください

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