コラム

回帰分析の注意点4つ

Q&A
執筆
堀井 里奈
公開日
2017年5月29日
更新日
2022年12月7日

広告宣伝費の最適化を図るために、広告宣伝効果の検証を回帰分析を使って行おうと考えているのですが、注意するべきことはありますか?

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広告宣伝活動にかかるコストは、手法によっては莫大な金額がかかることもあるため、誰もが最大の効果を実現したいと考えていることと思います。

さて、今回の相談に登場した「回帰分析」というワードですが、広告部やマーケティングに関わる部署に所属する方であれば、しばしば耳にする機会もあるかと思います。回帰分析をおこなうことで、それぞれの広告宣伝活動に一体どれくらいの効果があったのかを数字で見ることができるので、人気のある分析手法のひとつですね。

回帰分析の広告宣伝分析への適用例としては、以下のようなケースがよくあります。

ある商品Xの広告宣伝活動をTVCM、Facebook、雑誌の3つの媒体で行ったとして、この時の売り上げを数式で表すと \(S = \beta_0 + \beta_1 x_1 + \beta_2 x_2 + \beta_3 x_3 \) となります。

この時、\(\beta_1, \beta_2, \beta_3\)の3つの係数は、各媒体の広告宣伝効果を表すものであり、回帰分析を行うことによりこの係数を算出します。(\(x_1, x_2, x_3 \) はそれぞれの広告に掛けたコスト、\(\beta_0 \)は切片になります。)

ここで算出された係数の値が大きければ大きいほど宣伝広告の効果があったということになり、これらの結果を踏まえてどの媒体にどれだけの資金を投入するのか決定すれば、理論上は、広告宣伝費の最適化を実現することができるわけです。例えば、\(\beta_1 = 1.0, \beta_2 = 0.7, \beta_3 = 0.3 \) とすれば、TVCMにより資金を投入し、雑誌広告は控えるべきであるという提案が出せますよね。

では、ここからは本題である回帰分析を行う上での注意点についていくつかお話したいと思います。

①できるだけ完璧なデータを揃える

もし多くのデータが揃っていなかったら、その活動で得た売上の効果が他の活動に割り振られてしまい、正しい意思決定ができないリスクが生じます。また、集められたデータは正確である必要があります。統計の世界ではよく「Garbage in, garbage out」と言われるのですが、これを直訳すると「ゴミを入れたらゴミが出てくるよ」となります。つまり、回帰分析でも、不正確なデータを入れて算出した結果は不正確なものになってしまうということです。完璧にデータを出そうとすると大変ではあるのですが、ある程度正しくデータを準備できなければ、その分析の価値は下がってしまうので注意(と覚悟)が必要です。

②トレンドを除去する

例えば、右肩上がり、右肩下がりといったトレンドが、被説明変数(今回の場合売上にあたります。)に含まれる場合は要注意です。回帰分析はトレンドに非常に弱いため、一定のトレンドが被説明変数に観測できる場合は除去してから分析をしましょう。トレンドの除去には、対数を取る、階差をとるなどの方法があります。詳しくは時系列分析の本をご参照ください。定常化処理等で説明されていると思います。

③データ自体の相関が強くないかを確認する

回帰分析の場合、説明変数(今回の場合では、\(x_1, x_2, x_3 \)を指します)間に強い相関が存在すると、多重共線性が発生し、正しくデータを分析できなくなってします。特に広告宣伝活動は 新商品発売などに伴い同時期に広告を打つことも多いため、どうしても相関が強くなりがちです。その際は、変数を合併するなり、削除するなりして、多重共線性が起こらないようにする必要があります。変数を削除するとなると①の全てのデータを揃えるということと相反する様に感じるかもしれませんが、多重共線性が起こる時点で、複数の活動が同じ活動をしているとみなされてしまうので、合併や削除することでそれぞれの活動をセットで評価する方針に切り替えることが大切です。

④効果の評価はビジネス的な解釈とセットで行う

データの加工で多少は期間を延ばすことは可能ですが、回帰分析は基本的には短期的な即時性の反応を見る時に有用な分析方法です。

TVCMを例にご説明しますと、TVCMの効果測定に回帰分析を用いる場合、オンエアを始めたタイミングでどれぐらいの売上が返ってくるのかという観点での分析は可能ですが、TVCMの放映後ブランドイメージの変化が起こり、3ヶ月後に消費者の購買行動が変化したとしても、その効果測定を通常の回帰分析で算出することはできません。(実際にはAd Stockと呼ばれる残存効果等を考慮にいれますが、それもやはり短期間のインパクトになります)

そのため、短期的に動いていた活動において、回帰分析によりその効果が低いと算出されたからといって、中長期的なスパンでは必ずしも効果が低いとはいえず、逆もまた然りです。このことは、回帰分析の結果を踏まえて今後の活動計画を立てる上でも把握しておくべき重要なことです。

例えば、値下げをすると売上があがるという結果が出たとしても、値下げをした場合、中長期的に企業ブランドそのものが毀損してしまう可能性があるのはホジョセンのコラムなどでもよくお伝えさせていただいています。そういったことを回帰分析は見逃してしまうリスクがあります。そのためにでてきた結果に対して、回帰分析以外にも中長期的に適応していく術をビジネス的な解釈をもって議論する必要がありますね。

最後に回帰分析は有効な分析方法ですが、分析結果に至った理由を教えてくれません。そこは自分たちで考える必要があるのです。高い効果が確認できたならば、安易に同じことを行うのではなく、何故高かったのを検証して次のアクションに活かしていくのがよいかと思います。

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