コラム

マーケティング活動の長期効果を測定するには

マーケのヒント
執筆
足立 理恵
公開日
2018年1月17日
更新日
2022年9月29日

マーケティング活動には、日々のビジネスを活性化するような短期的なリターンを期待するケースとブランドを地道に育て中長期的なリターンを期待するケースと、大きく2つの活動が存在します。

一つの広告宣伝活動は、短期的もしくは長期的のいずれかに目的をおいて計画・実行されますが、短期的な目的の活動であっても活動が単発的でなく継続的であり、蓄積効果を想定できてブランド力が上がっていくのであれば長期効果を期待できます。

マーケティングの長期的効果については、短期的効果の約2~3倍と言われることが多いですが、当然、商材やマーケターによって「長期」の定義が異なりますし、マーケティングの長期的効果は直接的に測定することが難しいため、人によっては長期的効果を信じないといった立場を取る方もいます。

このような限定性を理解した上で、マーケティングの長期的効果の観測についてお話ししたいと思います。

長期効果が発生する仕組みは、端的にいうと「企業のマーケティング活動により消費者の中でブランドに対する理解が深まり共感が生まれ、ブランド力が向上する結果、ブランド価値が高まる。それによって売上が向上する」という考えです。

価値を上げるには、2つの方向性しかありません。

長期効果のゴールをブランド価値とするか売上とするかは企業の大目的に依りますが、この考えによれば長期効果は以下のパターンで表すことができます。

  • ブランド理解、共感の変化として測る
  • ブランド力として測る
  • 売上として測る

このほか、Financialの指標として表すという手もあります。ひとつはのれん代です。企業買収などでは買収額ー総資産+負債で表される、無形価値についての指標になります。ブランド力だけでなく技術力やノウハウといったことも評価に含まれるためこの数値での評価は難しいかもしれません。また、経済産業省が平成14年に発表しているブランド価値評価モデルも、ブランド価値を財務諸表の数字を用いて計算をします。財務的な見方となり領域がずれてしまうので詳しい説明はいたしませんが、コーポレートもしくはブランド単位で広告宣伝費を含めた財務管理をされているケースには適用出来るかと思います。

では、それぞれについて紹介していきましょう。

ブランド理解、共感の変化として測る

これは、ブランドエクイティというブランドが持つ有形・無形の価値を指標とする考えです。ここでは、消費者がブランドに対して突出して持っているイメージや評価といった無形の価値を扱います。マーケティング活動がブランドエクイティを向上させることに寄与しているとして、マーケティング活動の長期効果を把握しようという考え方です。

要はブランドイメージ調査の形式で、ブランドエクイティの変化として計測します。

ただし、ブランド力や売上と関係するかたちでブランドエクイティについて定量的に評価するには、ブランド認知・構築の理論に基づいた調査設計を行うこと、また、フェアな評価を行うことが非常に重要になります。詳しくはホジョセンのサービス「Equity Compass」にて紹介しています。

ブランド力として測る

指標としては、需要の価格弾力性をみることになります。

需要の価格弾力性とは、価格の変化率に対して、需要量がどれだけ変化するかの比率を指したものです。「広告がブランド選好を高め、消費者が商材に対してより多くの金額を払いたいと考えるようになる」とする立場に立つと、価格弾力性による測定が考えられます。

この指標を長期的に観測することによって、消費者の価格感応度の変化が分かります。ブランド力が大きい商品ほど、多少の価格変化が生じても需要の変化は小さくなります。

これも消費者アンケートとして観測することになります。ブランドエクイティでも価格弾力性についても、アンケートで長期的に観測する場合、聴取の仕方を変えると回答基準も変わる可能性があり、以前の観測値と比較ができなくなる懸念があります。長期で観測を行う場合は、どのようなアンケート設計にするのか事前によく検討することが重要です。

もうひとつの観測方法としては、POSデータなどから価格に関する反応を評価するという手法も考えられます。ただし、POSデータの反応は価格だけで発生するわけではなく、たとえば山積みであったり、競合の価格であったり、TVCMであったりとさまざまな外生変数に影響を受けます。したがって、価格弾力性の評価をする際には、こういった影響をきちんと取り除いた上で統計的に評価することが必要です。

売上として測る

ブランド力が向上した結果、売上に関わる要素がどのように変化するかを観測します。

方法のひとつは、消費者行動に着目した方法です。消費者のなかにブランドへの共感が生まれ、ブランドとの心理的な繋がりが発生すると、ブランドへのロイヤリティという行動として現れます。つまり、リピート購買がどれだけ起きているか、を指標とする方法です。

もう一つの方法は、売上を要素に分解し短期的な効果としては説明されないベース部分に着目する方法です。

リピート購買を指標とする

広告が消費者の購買を促進させるという考え方に立てば、リピート購買による測定があります。リピート購買とは、ある期間内において、消費者が自社ブランドを何回購入したかを観測することを指します。これは消費財などの購入回数が多くなる商材でとりわけ当てはまりが良い考え方になります。

ただし、近年では、購買行動はある程度ランダム性をもっておこなわれ、リピート購買回数は浸透率と正の相関がありそれに依存する、という科学的な検証に基づいた考えもあり(ダブル・ジョパディー理論)、リピート購買の伸長は必ずしも広告効果によるとは言えない可能性も大いにあります。

ダブルジョパディーの法則に関しては、ホジョセンコラム 「ダブルジョパディの法則」の意味と制約を正しく理解しようにて詳しく解説しています。ぜひ合わせてお読みください。

ベースラインの分解

広告が消費者の認知・差別化・選好に影響しているとすると、「売上 = 広告出稿などのマーケティング活動を行ったことで発生した売上 + マーケティング活動とは関係なく発生した売上(ベースライン)」と分解した時の、ベースラインが増加することがマーケティングの長期効果とする考え方があります。ただし、配荷の増減はベースラインに組み込まれることが多いので、注意が必要です。その場合は、配荷1pt当たりの売上を考えてみるのが良いかもしれません。

売上の分解については、Marketing Mix Modelingと呼ばれる短期的なマーケティング投資効果の分析を目的とした手法を応用します。

さて今回は、広告による長期効果の測定方法について、いくつか簡単にご紹介させていただきましたが、どの方法にもそれぞれに弱点が存在しており、また、実際にマーケティングの長期的効果を把握することはデータの蓄積がない、データの定義が変更されるなど様々な理由から大変困難になります。

そのため、以上の指標に対して完全に信頼を置くのではなく、あくまでもマーケティング活動の意思決定における参考の一つとしてください。

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