コラム

独自の軸で勝つポジショニング変更を行うには

マーケのヒント
執筆
柳田 満里奈
公開日
2025年5月7日
更新日
2025年5月7日

ポジショニングは顧客の頭や心の中にある商品・サービスの明確なポジションを確立することであり、他ブランドと競合することなく自ブランドが消費者に選ばれることを目標とします(アル・ライズ, ジャック・トラウト, 『ポジショニング戦略(新版)』 pg. 15)。他ブランドと競合しないポジションを目指しますが、消費者の誰からも求められないポジショニングになってしまっては意味がありません。そのため、消費者の視点を反映させることが重要となります。(ポジショニングについては、「ポジショニングを考える上でのポイント3つ」で詳しくお話ししているので、気になった方はこちらをご覧ください。)

今回お話しする「ポジショニング変更」は、これまでに築いたブランドの資産と、これからブランドが目指す方向性の両方を考慮する必要がある点に難しさがあります。

ポジショニング変更をおこなうタイミング

そもそもポジショニング変更を行うか否かで悩んでいる方もいらっしゃるのではないでしょうか。ポジショニング変更を行うべきタイミングには大きく2つのパターンがあります。

市場の変化により、ポジショニングが効力を失った場合

当然ですが、ブランドを取り巻く外部環境は常に変化します。具体的には、技術の進化・競合の活動・生活者のライフスタイルや価値観の変化等が発生し、それによって自ブランドの軸の独自性が失われたり、消費者の意思決定軸が変化したりします。そうなるとポジショニングは過去のようには機能しなくなるため、ブランドは変化した外部環境に合わせてポジショニングを見直さなくてはなりません。

ポジショニングの効果が限られた市場でしか機能していない場合

ブランドのポジショニングは機能しているけれど、それがごく限られた市場または縮小傾向にある市場でしか機能していない場合は、今後のブランドの伸びしろは限られてしまいます。ブランドの成長や存続を考えるのであれば、ポジショニングを見直すことが一つの手段になるでしょう。現在のブランドユーザーを基盤とする前提で、現在のターゲットセグメントに近い他のセグメントも取り込めるようにポジショニング変更をすることで、シェアを拡大できる可能性があります。

売上やシェアが下がると、ブランドとしてこのままで良いのか、ポジショニングを変えた方がいいのではないかと不安に思われる気持ちもわかります。しかし、上記のような場合を除いてポジショニングはむやみに変更するものではありません。ポジショニングの変更にはリスクが伴うからです。

ブランドは、長い間一貫性を保ち活動することで、消費者の頭の中でブランドのポジショニングが確立され、同時に、ブランドについての様々な想起が醸成されていきます。なにか問題が発生したときにポジショニングを変更して解決を図ろうとすると、ブランドがこれまでに築いた資産(とその資産を築くために費やしたコスト)を捨ててしまう可能性があるのです。その可能性について十分に考慮されないままポジショニング変更が行われるとすれば非常に勿体ないですよね。

ポジショニング変更の4つのポイント

ブランドが置かれた市場環境を見直してポジショニング変更が必要だと結論づけられたら、見直しに入っていきましょう。ポジショニング変更では、ブランドを立ち上げる際の検討と共通する検討内容と、既存のブランド資産があるという前提条件によって変更時独自に発生する検討内容があります。ポジショニング変更において気をつけるべきポイントは以下の4つです。

1. 他社が真似できない独自の軸を選択する

自分たちが独自に戦えるポジションを見つけるために、市場をより細かく分割し、自分たちが有利になりそうなポジションを見極めます。このとき、「自ブランドか、自ブランド以外か」を区別する強烈な軸を探すことが重要です。(詳しくは「2軸で表現するポジショニングマップに潜む2つの問題点」をご覧ください。)

他社が真似しづらい、という観点は、①ニッチ対応など市場要因に起因して真似しづらい、②製品特性に起因して他社が真似しづらい、③他ブランドがもつイメージやイメージを形成するロジックに反する、の3点で検討してみるのがおすすめです。実際に、他社が真似できない独自の軸で戦っている企業をご紹介します。

①マニー株式会社

医科と歯科の医療機器メーカーであるマニー株式会社は、「世界一の品質」へのこだわりを徹底することで独自の戦い方をしています。扱う製品が「世界一か否か」を議論する「世界一か否か会議」を年2回開催し、世界一の品質を提供することで他社と差別化をしています。

(臼田 正彦(2024), 『複数の医療機器で世界上位のマニー 営業手法転換で加速』, https://www.nikkei.com/nkd/company/article/?DisplayType=1&ng=DGXZQOUB26B3E0W4A320C2000000&scode=7730))

②バルミューダ株式会社

家電を販売するバルミューダは、「高級家電」という独自の軸をとっています。製品特性において他の商品にはない「デザイン」と「優れた機能性」で差別化を図り、ステンレス製ホットプレート「バルミューダ・ザ・プレートプロ」をはじめとするヒット商品を輩出しています。

(村上 洋一(2024), 『 バルミューダ デザインと技術でヒットを生む 来春、NYに営業拠点』, https://senken.co.jp/posts/balmuda-241223)

③パナソニック株式会社

トイレ市場のトップシェアを誇る東洋陶器株式会社(現TOTO株式会社)は、陶器を素材とするトイレを販売していました。そこで、パナソニック株式会社は、汚れがつきにくい有機ガラス系素材を素材とするトイレ「アラウーノ」を販売しました。東洋陶器は名前のとおり陶器を素材としたトイレを販売していたため、ブランドイメージを壊す恐れがあり、パナソニックは他社が参入しにくい独自の軸でポジショニングを行いました。

(沼上 幹, 一橋MBA戦略ワークショップ, 『市場戦略の読み解き方 一橋MBA 戦略ケースブック vol.2 』, pp. 107-109)

2. 変更したいポジションが消費者にとって魅力的であるかを検討する

コラム冒頭の繰り返しになりますが、独自性のあるポジションとそれに適したセグメント(サブ市場)を見つけたとしても消費者から求められなければ意味のないポジショニング変更になってしまいます。独自である、つまりこれまで誰も参入しなかったポジションは、どの企業も気づくことができなかった魅力的なポジションである可能性もありますが、そのセグメントが多くの企業にとって市場規模が期待できないという点で魅力的でない可能性も捨てきれません。

そのため、自社が目指す売上に対しての市場規模の大きさを判断基準とし、見つけたポジション・セグメントにおいて、市場規模がどれぐらい期待でき伸びそうか、もしくはそれを伸ばしていけるのかを検討する必要があります。

3. 変更したいポジションと現在のポジションのギャップを評価する

変更したいポジションと現在のポジションのギャップには、ブランドが持つRTBとそのRTBがもたらすベネフィットが大きく関係します。RTBの共通点が少なく、ベネフィットの距離感が遠いほどギャップは大きくなりポジショニング移行も大変になります。

ギャップの大きさは取れるリスクに依存します。ギャップが大きくなればなるほど既存ユーザーは離れていきますが、ノンユーザーを引きつけられる可能性は高くなるでしょう。また、ポジショニング移行が大変になる分、リソースも必要になります。

例として、強炭酸がRTBであり、「スッキリした気分になる」ことがベネフィットである炭酸飲料ブランドを考えてみましょう。

「目が覚める」というベネフィットを提供するポジションに移行したい場合、「目が覚める」と「スッキリした気分になる」はベネフィットの距離感が近いので移行しやすいでしょう。「お酒に合う」というベネフィットを提供するポジションに移行したい場合であっても、「スッキリした気分になる」とベネフィットに多少距離感がありますが「強炭酸」というRTBは共通して使うことができるので、そのRTBが浸透しているならば消費者にとって受け入れやすくポジショニングの移行はそこまで困難ではないと考えられます。ギャップの小さいポジショニング変更は既存ユーザーを離しにくい一方で、消費者が違いを認識しづらくノンユーザーを引きつけられない可能性も潜んでいます。

一方で、「癒された気分になる」というポジショニングを目指すには、RTBを共有しづらくベネフィット同士の距離感もかなり遠くなるので、ギャップはかなり大きくなります。ノンユーザーを引きつけられる可能性は高まりますが、既存ユーザーが離脱するリスクを取れない場合は、既存ブランドからの移行ではなく新しいブランドを作ってそのポジションに置くことを検討した方がいいかもしれません。

どの程度のギャップが適切かはポジショニング変更をする目的による部分が大きいですが、現在のポジションから近すぎず遠すぎない移行をおすすめします。

4. ポジショニングを確立するための資源を確保できるか

自ブランドと自ブランド以外を分ける強烈な軸をみつけ、ブランドのRTBを考慮したうえでポジションを変更したとしても、それを消費者に伝えることができなければポジショニングは確立できません。

まずは、そのポジションを押さえ、自社の目標を達成するために必要な資源は何かを議論する必要があります。そして、その必要な資源を自分たちは持っているのか、もしくは獲得できるのかを検討します。必要な資源は様々で、「3. 変更したいポジションと現在のポジションのギャップを評価する」で挙げたRTBも資源の一つです。象徴するようなプロダクトであることもあれば、活動に必要なノウハウやコネクションのように無形の資源もありえるでしょうし、純粋に広告予算を求められることもしばしばです。いずれにせよ、必要な資源を獲得する目途がないままではポジショニング変更は失敗に終わるでしょう。

ポジショニング変更では、「自ブランドか、自ブランド以外か」を分ける軸は何か、ブランドの資産を活かすことができるのか、そしてポジションを移動することで自ブランドが消費者に選んでもらえるようになるのかを検討することが大切です。市場環境と消費者視点の両方を持つことが、ポジショニング変更の成功への第一歩となるのではないでしょうか。

参考文献

アル・ライズ, ジャック・トラウト, フィリップ・コトラー(序文), 川上純子(訳), 『ポジショニング戦略(新版)』, 海と月社, 2008, pg 15.

臼田 正彦(2024), 『複数の医療機器で世界上位のマニー 営業手法転換で加速』, 日本経済新聞社, https://www.nikkei.com/nkd/company/article/?DisplayType=1&ng=DGXZQOUB26B3E0W4A320C2000000&scode=7730, (参照 2025-02-20)

村上 洋一(2024), 『 バルミューダ デザインと技術でヒットを生む 来春、NYに営業拠点』, 繊研新聞社, https://senken.co.jp/posts/balmuda-241223, (参照 2025-02-20)

沼上 幹, 一橋MBA戦略ワークショップ, 『市場戦略の読み解き方』, 東洋経済新報社, 2017, pp 107-109

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