コラム

施策の軸作りからレビューまで。クリエイティブブリーフを活用しよう

マーケのヒント
執筆
足立 理恵
公開日
2020年9月2日
更新日
2022年9月30日

クリエイティブブリーフは、様々な広告やキャンペーンの企画段階で作成される資料です。施策を実施する目的、そのために消費者に対してどんな認識の変化を起こすのか、それをどんなメッセージで促すのか、施策の骨格を端的にまとめたものです。

似たようなところで、コミュニケーションコンセプトを作るのにクリエイティブブリーフは何のために作るんだろう?と思われるかもしれません。

コンセプトはブランドが消費者に対して何を提供するのか・価値は何かというWHATの定義であったのに対し、クリエイティブブリーフはこのWHATをどう伝えるのか・現実にするのかという施策(HOW)の台本である、と考えていただくとわかりやすいかと思います。クリエイティブブリーフでは、施策のターゲットがどういう人で、何に刺激をうけてどんな変化が生じるのか、ターゲットの視点や変化が明確に述べられます。クリエイティブブリーフで消費者の変化を定義し、その変化を起こすためにどのような表現にするのかを考えるのが施策の具体化プロセスです。

クリエイティブブリーフの構成要素

クリエイティブブリーフとして議論されるべき要素は以下の8つです。

  1. キャンペーンの目的
  2. ターゲット(WHO)
  3. キーメッセージ(WHAT)
  4. 現状(どう思われているか)/将来(どう変えたいか)
  5. 信じられる理由(RTB)
  6. コンシューマーインサイト
  7. トーン&マナーとその意図
  8. 制約事項

1. キャンペーンの目的

施策が請け負い、施策によって直接的に達成できる目的を記載します。4Pとなる以上「認知率を◯%上げる」などKPIになるような具体的な指標で言及されることが望ましいです。

2. ターゲット(WHO)

施策でターゲットとする人はだれでしょうか。ブランドターゲットに含まれる人であり、そのなかで施策の目的に特化して態度変容を促したい人はどんな人なのか(ターゲットの中でもプライムプロスペクトと呼ばれる人たちです)。性年代だけではなくどんな価値観を持っているのか、悩み・ニーズ・達成したいことなど、特に施策に関係する価値観はどんなものかを考えましょう。

3. キーメッセージ

施策を通して何を伝えたいのか。ターゲットがお金を払いたいと思う、価値に直結する部分です。設定したターゲットにとって、魅力的なものになっているか検討します。

4. 現状(どう思われているか)/将来(どう変えたいか)

施策によってどのような認識の変化を起こすのか。施策によって壊すべきターゲットの認識とは何か(=現状)、壊した上でターゲットに持たせたいブランドにとって都合のよい認識(=将来)とは何か、です。認識を変化させる対象は、ブランドや商品そのものであったり、ブランドが属するカテゴリや生活シーンに対してであったりと様々です。

5. 信じられる理由(RTB)

ターゲットは、何を根拠として価値や将来(どう変えたいか)が現実になると信じられるのでしょうか。価値を発生させる技術情報や実験結果、専門家の意見、こだわって実施していることなど、ターゲットが納得できる要素を盛り込みます。

6. コンシューマーインサイト

キーメッセージや将来の姿をより重要に感じるためきっかけ、消費者の気付きは何か?もしくは、気づかせるべき事実は何か?現状の認識を壊すための、消費者の刺激となる情報です。ホジョセンコラム「潜在ニーズはそこら中にある。その料理の仕方こそマーケターの腕の見せ所」で示しているインサイトの定義

  1. 新たな気づきを与える
  2. 結果として潜在ニーズをカテゴリと結びつけて認識させる
  3. 行動の変化を促す
  4. 行動が自ブランドに向かう

と同じです。

7. トーン&マナーとその意図

どんな雰囲気で伝えるのか。よりターゲットに共感される世界観は何か?ブランドが定義する世界観にも沿わせつつ、伝わりやすくなる雰囲気を考えます。

8. 制約事項

ブランドの定義からはずれるコミュニケーションは、ブランド毀損を招く恐れがあります。また、施策ごとに違う内容・世界観にすることは効率的なやり方ではなく、お勧めしません。守るべきブランドの内容や、これまでのコミュニケーションから引き継いでおくべき要素も明確にしておくとよいでしょう。これ以外に、このコピーを使う、セレブリティはこの人、こういう訴求はやらない、といった制約条件があれば整理しておきます。

書き込み可能なテンプレートを資料ダウンロードのページに用意しておりますので、ぜひダウンロードしてお使いください!

クリエイティブブリーフ テンプレート

クリエイティブブリーフの使われ方

クリエイティブブリーフに書かれる内容は施策の骨格になるため、施策の実行メンバーに(広告であれば代理店やデザイン会社に)内容説明・合意の資料としてだけなく、計画〜実行〜振り返りまで、目的を一貫させるための指針として使うことができます。

クリエイティブブリーフの内容が合意されたら、施策の実行担当はクリエイティブブリーフの内容に沿って広告物やキャンペーンの具体的な内容作りに入りますし、制作物のレビュアーはクリエイティブブリーフの内容が実現されているか(伝えたいことがターゲットにちゃんと伝わるか)を評価し、フィードバックを行います。

施策実行後の効果検証でも、メッセージはターゲットにどの程度認知されているのかはもちろんですが、期待した変化をどのくらい促すことができたのか、それによって目的は達成されたのか、などクリエイティブブリーフに記載された目的と要素の達成度を確認します。

クリエイティブブリーフを使って施策を固める

基本的に、埋めることが目的ではありません。埋めながら、全体を一貫するように考えを整理するフレームワークとして使っていくのが正しい使い方です。書けるところから埋めていき、全体の整合を見ながら調整していけばよいのです。埋める過程で、「あれ、消費者って今どういう認識なんだろう」「ここはつじつまが合わないな」「説得力が弱いかな」など気づきがあるはずです。その気づきにもとづいて、プランのブラッシュアップを行います。

もし、論理的に埋めていくのであれば、まずは「施策の目的」からになるでしょう。これは、施策についてあれこれ考え始める・クリエイティブブリーフを書き始める前から定まっているはずです。ブランドの現状課題に応じて、あるいは組織目標から決まっていることもあるでしょう。

「ターゲット(WHO)」と「現状(どう思われているか)」「将来(どう思われたいか)」は、「施策の目的」を詳細に説明するような内容になります。ですので、次にこれを記載することになるでしょう。ブランド戦略が固まっていれば戦略ターゲットがいるはずなので、そのなかから施策として着目するコミュニケーションターゲットを定め、「ターゲットの(ブランドにとって都合の悪い)現状認識」と「ブランドが理想とする・ブランドにとって都合のよい認識」について整理します。

事前にコミュニケーションコンセプトが固められていれば、キーメッセージ・コンテクストづくりと考え方は同じです。その内容にそってターゲット像を具体化すればよいでしょう。

ただし、コンセプトの内容がそのまま埋め込めるとは限りません。たった1つの施策で伝えられることには限界があるからです。たとえば、テレビCMは1回あたり15秒や30秒の時間に限られるように、伝える側が出せる情報量に限りがあります。また、コンセプトの内容が実現された状態とターゲットの現状とのGAPが大きければ、1つのメッセージで変化を促すのが難しくなります。ブランドのことさえ知らない人に、ブランドを覚えてもらい、ブランドの強みを正しく理解してもらい、自分に役立つもの・いいものとして認識してもらい、大好きになってもらう….なんて一足飛びの変化を計画するケースはほとんどありませんが、1つのメッセージに触れさせる・体験させることで引き出せる変化の大きさには限度があると理解しておくべきでしょう。その制約は理解した上で、促したい変化を具体的に設計していきます。

最後に、この変化を実現するために消費者にあたえる刺激(コンシューマーインサイト)、キーメッセージを整理し、そのメッセージに合うRTBの取捨選択とブランドとメッセージにふさわしいトーン&マナーを決定することになるでしょう。

ひととおり埋めた後、もしくは埋めながら、それぞれの内容が合致しないなと思ったら、前の要素の議論も踏まえつつ修正していくとよいと思います。

クリエイティブブリーフ作成の注意点

全体がロジックとして整合するように、というのはもちろんのこと、それに加えて気をつけたいポイントを上げておきます。

目的やメッセージは1つに絞られているか

ついつい、言いたくなるのですが、人は一度にたくさんの情報は理解できません。複数の伝えたいことが無理なく繋がりストーリーとして織り込める場合はそのように伝える方法もありますが、慣れないうちは1つに絞ってプランするのがお勧めです。さまざまな言いたいことから、何が重要なことなのか・何を伝えるべきなのか検討ください。また、絞り過ぎて情報が無さ過ぎてもダメです。

「言いたいこと」と「伝えるべきこと」は必ずしも同じではない

カテゴリー売上No.1、新技術搭載、業界最高水準、◯◯さんお勧め!など、謳い文句になることがたくさんあるのは素晴らしいことです。「業界最高の静音性、静かさにこだわった掃除機です!」と言われれば、ほとんどの人がおーすごいね!と感心するでしょう。ですが、多くの場合関心はそこまでで止まってしまいます。それよりも、「この掃除機は業界最高の静音性で、隣の部屋や階下に音が響くのを気にせずいつでもお掃除ができますよ!」と言われるほうが掃除機の良さがわかりやすく、魅力的に聞こえます。消費者の生活にこんな良いことがあるよ!こんなふうに良くなりますよ!というのが優先して伝えたい価値のはずです。新技術やNo.1といったことは言わなくていい、ということではなく、価値の裏付けるもの・RTBとして使ってください。

コンシューマーインサイトはインサイトになっているか

傾向的にこれがうまく整理しきれていない企業さんは結構多いです。WHATや将来の姿をより魅力的なものにする気付きなので、他の要素(たとえば現状やキーメッセージ)と同じになることは本来はありえません。気付きを与え変化を促すのに十分なほどインパクトのある内容になっているかどうか、客観的な評価も取り入れつつ進めましょう。

過剰な期待になっていないか

この施策1つでその変化を実現できるのか、「1を聞いて10理解する」ようなことを消費者に期待してしまっていないか(もしくはクリエイティブに過剰に期待していないか)、注意してください。

HOWに言及しすぎない

コピーに使いたいワードや、ネタになる要素はクリエイティブブリーフに含まれるケースは多々ありますが、それ自体は特に問題ありません。ただ、過度に実現策に言及しすぎるのは、クリエイティブ側はもちろんマーケター側にとってもよくありません。マーケターがクリエイティブブリーフ準備の段階で具体案に囚われてしまうと、目的が曖昧になる懸念があります。クリエイティブとして、特に広告での「伝えたいことより効果的に伝えるために何を際立たせるのか、どのような手法をとるのか」といった検討は専門的なスキルをもっている人に任せる方が優れたものになります。信頼できる広告代理店であれば、ブランド像や施策の内容をしっかりと共有した上で制作をお任せしましょう。


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