コラム

潜在ニーズはそこら中にある。その料理の仕方こそマーケターの腕の見せ所

マーケのヒント
執筆
高橋 孝之
公開日
2019年2月13日
更新日
2022年9月30日

目次

このコラムは、

  • 潜在ニーズは視点を変えればたくさん転がっている
  • 潜在ニーズを顕在化するには、インサイトが肝心だ
  • なんだかんだ言って、全部マーケティングそのものなんじゃないか

ということを、グダグダ述べています。

潜在ニーズ探しが好きな人、というか企業さんって多いですよね。新規事業だったり新ブランドの立ち上げだったり、もしくは新ラインナップでもリニューアルでもなんでもいいのですが、とにかく潜在ニーズを見つけ出そうとリサーチを繰り返してしまう。 これたいていのケースにおいて徒労に終わるので、一刻も早く止めたほうがいいのになあと感じることも多いです。

一般的な潜在ニーズの定義

なんで止めたほうがいいのかを語るためにも、潜在ニーズとはなんぞや、という話から始めます。さまざまな定義が考えられると思いますが、ネットを見るとおおよそ以下のような感じでまとめられている気がします。

潜在ニーズとは、消費者が気づいていない無意識に望んでいることである。

うーん。

こんな感じで潜在ニーズを定義しちゃうことが、マーケティング活動を迷走させてしまうひとつの原因なんじゃないかとすら僕は思っています。たとえばよくあるケースとして、「無意識に望んでいること」を曲解したあげく、誰も望んでいないプロダクトを世に出しちゃうケースの背景には、この「潜在ニーズ」が絡んでいると思うんです。それ、無意識にすら望んでいませんから…、ってプロダクトが世に出る背景は、「気づいていない無意識に望んでいること」ばかり考えすぎているのではないかと。気づいていない、無意識な部分に引っ張られて、なぜか「今望んでいないこと」を都合よく「潜在ニーズ」だとして解釈してしまっているパターンですね。これもすべては、潜在ニーズを上記のように定義してしまっていることから生じている問題だと思います。

では、マーケティング的に考えて、この定義のどこがいけないのか。それは、「気づいていない」という部分にあります。そんなもんあるんかいな、という話でもあり、同時にそんな必要性はない、という話でもあります。端的に言えば、潜在ニーズは、消費者に認識されていても構わない、ということです。でも「無意識」は重要です。認識されているのに無意識って何やねん、と思われる方も多いでしょうから、以下うだうだと述べてみます。

何にとって「潜在」なのか?

おそらく先ほどの定義から生じる迷走(と言ってしまいますが)は、「潜在」という言葉に引きずられて発生していると思います。上で述べた定義は、潜在しているニーズなんだから、消費者にとって潜在しているんだろう、という考えです。ですがマーケティング的に考えると、潜在ニーズとは、消費者の中に潜在しているニーズのことではありません。カテゴリ(や広義では自分のブランド)にとって潜在しているニーズと定義すべき概念なのです。

例を挙げて考えてみましょう。たとえば、「お腹を満たしたい」というニーズ。これは、おそらく顕在化しているニーズのひとつでしょう。しかしそれは、「食べ物」「飲み物」というカテゴリにとって顕在化しているニーズに過ぎません。衣料品や柔軟剤にとって、「お腹を満たしたい」というニーズは立派な潜在ニーズなのです。

一般的に、困っていることに対して、消費者はある一定のソリューションを自分の中で保持しています(ですので、実質的には困っていないことがほとんど)。たとえば、お腹が空いたらお菓子を食べる、というふうに。つまり、困っていることに対して、対応策が頭に浮かぶことがほとんどなのです。裏を返せば、消費者の頭の中に浮かぶ対応策以外は、選択されにくいということでもあります。ダニエル・カーネマンのファスト&スロー的に言えば、「システム1」で直感的に判断されてしまう事項だということです。 その前提にたったときに、マーケティングの観点における潜在ニーズとは以下のように定義することができます。

潜在ニーズとは、ニーズの対応策として、消費者が自カテゴリを想起しないニーズのことである。

消費者は大小様々な問題を抱えていますが、その解決手段としてある一定の固定観念を持っています。潜在ニーズは、その固定観念の中に存在していると考えるとわかりやすいかもしれません。この観点で考えると、「消費者が気づいていない無意識に望んでいること」を探しにいくことがどれくらい険しい道を選んでいるのか、わかるかと思います(たぶん見つからない)。

先ほど、「無意識」は重要な言葉です、と述べました。無意識という言葉自体は上記の定義に含まれていませんが、要は「無意識に対象カテゴリを解決策から除外している」ということです。意識的に除外しているわけではありません。そもそも考えもしないケースこそが、潜在ニーズだと言えるでしょう。

この定義のもうひとつ重要な点は、潜在ニーズはカテゴリによって異なるということです。上の例にもあるように、「お腹を満たしたい」ということはお菓子にとっては顕在化したニーズであっても、柔軟剤にとっては潜在ニーズであることは、十分にありえるということです。

ただし、この例はあまり良い例ではありません。なぜなら「お腹を満たしたい」というニーズは、柔軟剤にとって潜在ニーズであったとしても、解決可能なニーズではないからです。いや、もしかしたら解決できるなんてことがあったりしてそれはそれでスゴイんですけど、僕の想像力の範囲では柔軟剤で「お腹を満たしたい」に応えることは相当に難しいですし、解決のベクトルを柔軟剤にもってくることも、かなり難しいのです。

ってことはつまり、潜在ニーズを見つけただけでは意味がない、ということです。潜在ニーズ、かつ、自社のプロダクトで解決可能な課題を考える必要があるということです。そして、何が自社のプロダクトで解決可能なのかは、消費者に聞いてもわかりません。そのプロダクトのプロであるマーケターや研究者・開発者が考える必要があるのです。

いままでの話の流れから想像つくと思うのですが、この定義だと潜在ニーズは世の中に腐るほど転がっています。潜在ニーズをもとに考察をしていくと、何年あっても時間が足りません。あくまで考察の起点は自社のプロダクトの「価値」であるべきだというのが、ホジョセンの考えです。自社のプロダクトの「価値」がそもそもしっかりと定義できていない場合、取り組むべき潜在ニーズの立ち位置がぶれてしまいます。そうなると失敗しがちです。プロダクトの価値があいまいである場合、まずそこを(自社の意思として)固めることが大切です。そんな方には、まずブランドを見つめ直すことをオススメしております。その一方で、強い意志を持って、一つの潜在ニーズに対し新しい視点のプロダクトを提供することで、破壊的なイノベーションを起こそうと頑張ることもまた、重要なんだと思います。

話がすこし逸れてしまいましたが、言いたかったことは、自社のプロダクトで解決可能なことと、潜在ニーズを結びつけようということです。そして、潜在ニーズと自分たちのプロダクトを結びつけるために登場するのが、みんな大好き「インサイト」なのです。

インサイト=潜在ニーズを自カテゴリと結びつける役割

インサイトという言葉も、さまざまに使われている言葉のひとつです。ざっと探しただけでも、消費者の本音、消費者が気づいていないニーズ、潜在意識、人を動かす隠れた心理、消費者の視点などなど、いろんな定義が転がっている単語です。 ホジョセンでは、インサイトを以下のように定義しています。

①新たな気づきを与える

②結果として潜在ニーズをカテゴリと結びつけて認識させる

③行動の変化を促す

そして優れたインサイトとして、上記の3つに加え、

④行動が自ブランドに向かう

としています。潜在ニーズとカテゴリを結びつけ、結果として新たな行動に踏み出すような「気づき」をインサイトとしています。そして、どんな気づきを与えることで、消費者が新たな行動に踏み出すのかを理解している状態を、インサイトを把握している状態、といいます。

ひとつ例を出して考えてみます。

お椀で食べるカップヌードルという商品があります。日清食品が上市した、通常のカップヌードルと違い、カップがついていない、お椀で食べるカップヌードルです。この商品はとてもインサイトに富んだ商品だと、世に出たときに感銘を受けたことをよく覚えています。そして、美しいくらいに「潜在ニーズ」を呼び起こした商品でもあると思います。

この商品がアタックした潜在ニーズは、「楽して1品追加したいけど、あまりに手抜きなおかずはちょっと抵抗がある」という課題です。コレ自体は食事の準備という観点においてはこれでもかというくらい顕在化しているニーズでしょう。おそらく晩ごはんに関してインタビューすれば必ずといっていいくらいに発話される課題だと思います。でも、これは「即席麺」というカテゴリにおいては潜在ニーズだったんですよね。そもそもおかずとして即席麺を使うという考え自体、無意識にうちに消費者は棄却していたのではないかと思います。たしかにちょっと嫌ですよね、おかずとしてカップラーメンが並んでいるのって。

おそらく日清食品の担当の方は、この「潜在ニーズ」をなんとかして即席麺というカテゴリに結びつけたかったのだと思います。そこで発見した事実が、「できあいのものでも、お皿にのせると立派なおかずに見える(or 手抜きであるとバレない)」というインサイトだったのではないかと想像します。実はこの事実自体は、おそらくさまざまな所で確認されてきたものです。実際に、2009年にキユーピーが調査結果として似たような事例を発表しています。ただ、その情報がインサイトとして価値を生んだのは、即席麺というカテゴリにおいてだったということでしょう(キユーピー内部でフル活用されているかもしれませんが)。中食や調味料といったカテゴリにとってはおいしいインサイトたり得なかったことが、即席麺というカテゴリの視点から見ると、とてつもないインサイトだった、という話なのかもしれません。そしてこのインサイトの「とてつもなさ」が激しければ激しいほど、それはニーズが顕在化してしまっている既存カテゴリにとって破壊的なイノベーションとなるということでもあります。

繰り返しになりますが、インサイトというのは、自分のカテゴリやプロダクトに向いてこないといけません。だからこそ、消費者から「これはインサイトですよ」と教えてもらえることではないのです。消費者は自分のことはわかっても、カテゴリやプロダクトのことに関しては、基本的には素人さんです。その結びつきを評価するのは、マーケターしかいません。ですので、自分の頭で考えよう、ってのはマーケターにも大切な言葉なんだと思います。すぐに消費者に答えを聞かないことは、とても大切な心構えだと思います。

表現はことなっていますが、中村淳一さんがまとめているインサイトの定義がとても深いので、引用します。

インサイトとは? 消費者・ユーザー・ファン・読者の「なんとなく」がわかる肌感を身に付けることで、彼・彼女たちの反応を予測できるようになること。そのためには専門性が必要で一朝一夕でできるようなものではなく、日頃から消費者・ユーザー・ファン・読者ファーストでいることが重要。 「彼女」とのインタビューが「インサイト」とは何かを教えてくれた。 (https://note.mu/junichi_0521/n/n86b3ed0f2f6d)より

「反応を予測できるようになること」というのが、つまりは新たな行動にでることが予測できること、と言っても良いかと思います。つまり、どういう刺激を与えればどういう反応が返ってくる、これを理解していることという定義です。上記で僕が挙げたインサイトの定義は、彼・彼女を動かす「刺激」そのものだったのですが、中村さんの定義は上記の図における一連の流れを理解していること、と言ってもいいかもしれません。言いたいことは、同じことなんだろうと勝手に仲間意識をもっています(笑)。

中村さんのおっしゃる「肌感」を身につけること、これは本当に大切で、特にホジョセンのように外部パートナーとして動く立場だからこそ、より重要になってきます。そしてもちろん、クライアントさんのほうが豊富に体験しているベースがあるのも事実です。だからこそ、たくさんクライアントさんから追体験させてもらうのも、僕らの大切な仕事のひとつですし、1日でも早くクライアントに近づくことも至上命題です。そのために、クライアントに内緒でこっそりインタビューをしたりすることすらあります(コストが…笑)。それくらい肌感は重要だってことですね。でもやっぱり、書かれている通り一朝一夕でわかるようなものではないことも、やはり事実です。僕らは専門家ですから高速道路は乗れるかもしれませんが、どこでもドアは存在しないって感じです。よくわからない喩えですが。

マーケティング的な発想

このブログの前半で、「マーケティング的に」とか「マーケティングの観点における」とかの枕詞を使いました。マーケティングの定義も多様にあると思いますが、僕が考えるマーケティングを端的に言えば、「消費者の意思決定の軸を自社に都合の良いように変化させる」ことです。意思決定の軸を変化させるというのは、ニーズを作り出すこととニアリーイコールです。そして潜在ニーズにアタックするということは、現時点でカテゴリのニーズとして表面に出てきていないことを、当該カテゴリ、当該ブランドによって解決できると認識させることに他なりません。これはとてもマーケティング的な発想です。

いわゆる顕在化したニーズというのは、下の図でいう、「重要」かつ「不満足」な象限に相当します。ニーズを作り出すということは、それ以外の3つの象限にいる事象を、第一象限に移動するということです。つまり、現時点で重要でないこと考えていることを重要だと認識させ、現時点で満足していること(不満に感じていないこと)を不満足だと認識させる、というのがマーケティングの役割です。これだけ読むとちょっとひどい仕事のようにも聞こえますね。

P&Gや資生堂などで活躍されたクー・マーケティング・カンパニーの音部大輔さんは、これを「属性の順位転換」と呼んでいます。

「部屋がにおうのは空気そのものがにおうからだ」と考えれば従来の空間用の消臭剤が解決策であるが、「部屋がにおうのは洗いにくい布製品がにおうからだ」と考えれば布用消臭剤が解決策になる。「部屋がにおうという問題」あるいは「部屋のにおいがなくなって快適というベネフィット(便益)」について、「原因は空気そのものである」という属性から「原因は洗いにくい布製品である」という属性へ転換をはかることができたのが、5年以上も前に10億ドルを超えるまでに成長したファブリーズの市場創造の事例だ。 https://www.sbbit.jp/article/cont1/33355より

上記の例を読んでもわかるように、ニーズを作り出すということは、潜在ニーズを顕在化させることであり、結局は意思決定の軸を変化させることに帰着します。そして、意思決定の軸が変化することによって、人は新しい行動を取るようになるわけですね。つまり、意思決定の軸が変わるくらいの衝撃を消費者に与える「刺激」がインサイトだってことです。 長々と語ってきましたが、結局のところ、潜在ニーズもインサイトもニーズを作り出すこともイノベーションも、マーケティングそのものなんじゃないかと思うのです。そして大部分のマーケティングには、消費者が気づいていないような困りごとなんて必要ないんじゃないかと思います。

マーケティングで考えるべきことは、消費者が困っていることに対して、もうひとつの新たな選択肢を提供すること。そしてそのためには消費者の解決したい問題を理解する必要があるし、何をしたら消費者の行動が変わるのかを深く内省する必要もあります。 そのプロダクト、誰にとって嬉しいの、今流行りのIoT使ってみたかっただけじゃないの、それ潜在ニーズじゃなく不要なものですから、なんてことにならないように、しっかりと消費者のことを理解したマーケティング活動を心がけたいと改めて思います。

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