新規事業立案を通じてマーケティング的思考を身につけたいとご相談いただいたピップさま。弊社の実施施策について、当時の思いやその後の変化・影響など貴重なお話を藤木様に伺いました。
今回はマーケティングのトレーニングを、実際に新商品開発のプロジェクトをまわしながら実施しましたが、とても大変だったのではないでしょうか?
藤木部長マーケティング業務の経験がない社員がメインの対象で、しかも半年にわたる長期プロジェクト、もちろん大変なこともたくさんありました。
しかし、基礎的なデータの収集や分析、コーポレートイメージを可視化するワークショップや商品コンセプトの領域を定める際のベースとなる自社の資産の確認からホジョセンさんに介入してもらい、プロジェクトの早いうちからやるべきことの整理や自分たちの迷いを見える化できたことで、後の判断に立ち返る場所ができ、よかったと思います。
確かに、途中で食い違いが起こることもありましたが、みんなが同じゴールを持てたことで、意見を発信し合うことが、衝突ではなく、商品コンセプトのブラッシュアップに繋げることができたと思います。
また、弊社のもつ資源や、弊社のビジネスプロセス上の制約条件などを加味した上で、弊社が勝ちやすい市場はここだ、といった結論が消費者データや財務情報などと合わせて論理的に導かれたことは、非常に心強かったです。
このようなやりとりの結果として、市場のどこに弊社の勝機があるのかを見極める判断方法やプロセスなど、マーケティングのノウハウをしっかり社内に蓄積させ、一人ひとりのスキルアップに繋がったのではないかと考えています。
ホジョセンでは、ブランドについて考えるときは、「悩まないといけない」といつも言うようにしています。それは、一生懸命悩んだからこそ、ブランドに対する理解が深まり、こだわりも生まれるからです。そして、こだわりを持てば、そのブランドをちゃんと育てたくなりますよね。
悩まずできたピラミッドにいいものはほとんどありません。そういった点では、皆さんが「う〜ん」と頭をひねりながら、苦労してピラミッドを仕上げていく様子をずっと見てきたので、今回作ったピラミッドがブランドにおいて、いい礎になるのではないでしょうか。
藤木部長私もあの過程があったからこそ、プロジェクトチームが一つになれたと思っています。あの時の団結力をこれからも維持しながら、商品を世に出して「はい、これで終了!」ではなく、弊社の主力商品となれるよう、愛着を持ってしっかりと育てていきたいと考えています。
そのようにおっしゃってもらえるととても嬉しく思います。今回のプロジェクトの前後で、社員の皆さんに何か変化はありましたか?
藤木部長対象のメンバーは、これまで「新規事業においては、こういうものが作れました!」とか、「こんな商品を作りましょう!」というプロダクトアウト型の商品開発をしていました。
しかし、今回のプロジェクトは、定性・定量調査や家庭訪問といった手法を用いて、今までとは逆で「消費者にはこういうニーズがある。だからこのニーズに合う商品開発をする」といった、あくまでも消費者を中心に添えたアプローチでした。
それゆえ、今回のプロジェクトを通じて、「ものづくりとは、消費者観察の結果、ニーズやインサイト探索から生まれるコンセプトに合わせて行うべき」という弊社社員の意識改革に繋がったのではないかと思います。
特に、これまでも、主力商品においては定性・定量調査とも十分にやってきたのですが、家庭訪問の手法は経験が少なく、とてもいい刺激になりました。
例えば、仮説段階で想定していたターゲットの人物像と実際に家庭訪問した方との間にはかなりのギャップがあったことや、本音が出やすい分、インタビュールームでの調査よりも家庭訪問の方がインプットが圧倒的に多いことに驚かされました。改めて、消費者が声にも出さないような実態までも理解することの大切さを実感した次第です。
先ほど、仮説でのターゲット像と実際との間にギャップがあったとおっしゃいましたが、こんなふうに、期待を裏切られた体験があってこそ、そこに気づきがあり、ちゃんと消費者の実態を、調査で理解しないといけないというマインドセットになります。
藤木部長訪問調査の実施以降、今回のプロジェクトメンバー間での見解のズレがぐっと小さくなったような気がします。また、訪問調査以外の調査の時でも、「あの時の●●さんこう言ってたよね」とか「●●さんのあの行動はきっとこういうとこから来てるんだよ」など、家庭訪問で出会ったターゲットの方の話が会話の中にちょくちょく出てくるようになりました。
今思い返せば、訪問調査のデブリーフィング(ホジョセン注:定性調査において得られた知見や学びを共有・整理し、次のアクションを議論するラップアップセッションのこと)の時が、今回のプロジェクトの中でも、社員が一番盛り上がったのではないでしょうか。
仕事に楽しさが出てくると、好奇心を持って相手を理解しようとする気持ちも育まれるように思います。今回のピップ株式会社のメンバーは、もともとものづくりに重点をおいていたということもあり、好奇心旺盛で探究心があり、消費者を深掘りするという行程が、マッチしているなぁという印象でした。
藤木部長ありがとうございます。ただ、先ほど家庭訪問で消費者の実態を把握できるようになったと申し上げましたが、その一方で、「消費者が全ての答えを持っているわけではない」ということも大きな気づきの1つだと認識しています。
先ほども少し話したのですが、弊社の主力商品については、定性・定量問わず、割としっかり調査をやってきました。
ただ、消費者理解について、調査ばかりに依存せず、自分たちの目指すビジョンに沿って、自らの判断で答えを出せていたかというと、その限りではありません。今回を通じ、「ここの領域は調査を通じてしっかり消費者の実態を把握しなくてはならない」、「ここは自分で判断しチェックすればいい」、「これは自分たちの思いをしっかり反映させないといけない」という線引きができたことも弊社にとってよかったと思います。
確かに、何を自分たちで決めて何を調査で決めていいのかわからず、調査でなんでもわかる、消費者に聞けば答えが得られると考えている企業が、たくさんあるように思います。ホジョセンのコンサルでも、たまに「それを調査しても意味ないですよ」ということもあるのですが、場数を踏まないと、こうした判断が難しいということもあるようです。
藤木部長調査結果だけに頼らず、自分たちの意思を反映させなくてはいけない場面もあるという点においては、今回のプロジェクトメンバーのある社員の変化が象徴的だったような気がします。
彼女は、パッケージのデザインを担当しているのですが、通常デザインに携わる者がスタートからプロジェクトに関わるということはありません。
そのため、これまではコンセプトや伝えたいことがすでに整理された状態で依頼を受けパッケージを作る役割だったのが、今回はプロジェクトの初期段階から参加し、はじめは戸惑いもあったかと思いますが、あらゆる過程において、消費者理解に努めることで、彼女なりの意思を持つようになり、その意思をメンバーに向けてしっかりと発信していました。
今回を通じて、これまでマーケティングの経験がなかった社員たちが、ブランドという概念や消費者の声をしっかり聞くことの大切さを知り、ものづくりに対する意識や行動に変化を起こしました。別の社員は、だんだんデスク周りがターゲットみたいになっていったんですよ(笑)。ターゲットが好きそうな商品やグッズがデスクに溢れていくのを見て、彼女の変化を心強く思っています。
今では、ホジョセンさんとのプロジェクトにおけるキーワードが、プロジェクトを超えて弊社内における流行語大賞のように広まっていっていますよ。
ああ、だから先程初めてお会いした方も「◯◯◯◯のホジョセンさんですね」という反応だったのですね(笑)
解説記事
商品・サービス開発の基本アプローチ
2022年9月29日 高橋 孝之