コラム
実は、ホジョセンにお声がけいただくクライアントさんは、取締役や経営企画部門の方が多くを占めています。あれ、ホジョセンはマーケティング支援業なんじゃないの、と思われる方もいらっしゃるでしょうが、ホジョセンは「マーケティングの仕事は、マーケティングにとどまらない」という一見矛盾しているような考えを持っており、それに伴ってご発注部門もマーケティング部門から経営企画部門まで広くなっています。今回のコラムでは、マーケティングの仕事をしていると、なぜマーケティング外に目を向けることになるのかについて語ってみようと思います。
マーケティング活動とは、全ての消費者接点において何らかの体験を提供し、結果として自らのブランドの利用、購買へと繋げていく活動全般のことを指しています。
消費者が購買に至る動機(Key Buying Factor: KBF)は最終購買者である消費者が完全に決定づけるもので、この動機は自社の活動、競合の活動、関連するステークホルダーの動き、世の中のトレンド等によって影響を受けることになります。マーケティングはこのKBFと自らのブランドを結びつけることが第一の責任であり、KBFにブランドを寄せにいくか、自分たちにマッチする(新たな)KBFを提案するかの、大きく分けて2つの方針があります。
KBFはあくまで消費者の内にあるので、事業者側から提案はできてもコントロールはできません。KBFを充足するために事業者側でコントロールできることのうち影響の強いものを、KFS(Key Factor for Success)と呼びます。KBFは消費者側に存在するのに対し、KFSは事業者側に存在しています。KFSはその名が示す通り、Successの定義によっても変化します。100億のブランドと1億のブランドでは目指すSuccessも異なるため、そのブランドにとってのSuccessとはなにかを考えるのは重要となります。Success状態には、売上や利益といった財務指標だけでなく、人々の生活に与える良い影響など定性的なものも含まれる必要があるでしょう。
余談ですが、KBFそれぞれに充足するための企業活動が紐づくことになるため、企業はすべてのKBFに対応するのではなく、選ぶ必要があります。これがターゲットを絞ることの経営的な意味です。すべてのKBFを満たすくらい潤沢な経営資源を一企業が持つことは難しいでしょう。経営資源を効率的に使うためにも、押さえに行くKBFを絞り込む必要があります。
KBFを満たすためには、自分たちの事業システム(事業の仕組み)を検討することが大切となります。たとえば飲食店で安価なメニューの提供がKBFだったときに、どうやって十分な利益を確保しつつ安価にメニューを提供できるのか、それを可能とする事業の仕組みを構築することが重要となります。大量購入による原材料のボリュームディスカウントかもしれないし、本部機能の集約による規模の経済の実現かもしれないし、廃棄ロスを減らす需要予測システムかもしれない。消費者のKBFはひとつだったとしても、そのKBFを満たすために企業の取りうる選択肢は多岐にわたります。KBFを満たすために企業がどのような選択をするのか、何をKFSとみなして資源を集中投下するのか、これは事業戦略の根幹となることが多いことでしょう。
消費者にとっては安価にメニューが提供されていることが全てであり、その背景にある事業システムが意思決定に影響を及ぼすことは、原則としてありません。最近ではSDGsなどの観点で事業システムそのものも意思決定に影響を与えるようになってきている側面はありますが、依然として消費者の興味関心の対象として事業システムが位置づけられることは稀だといえるでしょう。
一方で、企業はどのようにして安価にメニューを提供するかという問いに答える必要があります。理想論をいえば、バリューチェーン全体がKBFを満たすように設計されていることが望ましいです。そうでなくとも、KBFを満たすためにバリューチェーンのどこに強いEnablerがあるかを考えることが重要です。安価にメニューを提供するためにもっとも重要なことが、安定した原料調達先の確保と調達部門の価格交渉力であることは変なことではありません。マーケティングの観点で満たしたいKBFがあったとしても、それを満たすための強いEnablerがマーケティングにあるとは限らず、調達部門などのマーケティング外のバリューチェーンに存在していることは珍しくないのです。広告宣伝だけでKBFを満たそうという姑息な選択をするのではなく、消費者のKBFを満たすために実施されるマーケティング活動は、マーケティングに閉じるべきではないのです。
広告宣伝による印象や情報の伝達だけに依存してKBFを満たそうとする人がいますが、これは本質的ではありません。KBFを満たすためにどのような事業活動と体制を構築するのかを考えるべきなのです。マーケターがこの職責を担う必要は必ずしもありませんが、消費者とのインターフェイスであるマーケティング活動を、消費者のインターフェイスに位置するマーケティング施策だけで達成しようとするのは避けるべきです。
マーケティング活動をマーケティング施策の内に限定しないのであれば、マーケティングの仕事はマーケティング部門の範囲を超えなければならないということを意味しています。良きマーケティング活動を実現していくには、経営レベルの強い意思と意識が必要だということであり、マーケティングの外にも目を向ける必要があるのです。
以上、ホジョセンのカウンターパートの多くが取締役や経営企画部門に属されている理由の一端のご説明でした。ご興味をもっていただいた方は、ぜひお問い合わせください!
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