コラム
セグメンテーションにおいて、最も重要なことはなんでしょうか? 因子クラスターや潜在クラスなど、分け方が思い浮かんだ方も多いのではありませんか? セグメンテーションと聞くと分け方に関心が集まりがちですが、分け方以前に重要なことがあります。それは、ビジネス理解です。
セグメンテーションの分け方に正解はなく、違いだけに着目してしまえば人の数だけ分けることができてしまいます。ここで大事なのは、「分ける」ことは最終目標ではないということです。そもそも、セグメンテーションはターゲティングのため、ターゲティングはポジショニングのために行うものであり、最終的にはビジネス目標の達成につながるべきものです。つまり、セグメンテーションは自分たちのビジネスにフィットする・より扱いやすいものが採択されるべきで、その具体的な検討の過程においてビジネス理解が欠かせないのです。
ビジネスにフィットするという観点には「ビジネスの想いやブランドのビジョン・方向性を踏まえていること」と「組織の規模や特性、ブランドが目指すシェアに合うこと」の2つがあるので、順番にお話ししていきます。
どのブランドにも目指したい方向性があり、それは同じカテゴリーであってもブランドによって異なっているはずです。したがって、理想像や目指す方向性の議論と整合した分け方をするならば、ブランドごとに分け方が異なったとしてもなんら不思議はありません。
ブランドが目指したい方向性を担保できるセグメンテーションについてご説明するにあたり、試しに洗濯洗剤のブランドで考えてみましょう。
ブランドとして「洗濯物をいい香りに仕上げる」ことを目指しているにもかかわらず、「時短して洗濯したい」「じっくり洗濯したい」「洗濯はクリーニングに出す」という分け方をすると、使いにくいセグメンテーションになってしまいます。それは、「香り」は仕上がりの観点であるのに対し、「時短」「じっくり」などはリソース配分の観点であり、マーケットを切る面が異なるからです。いい香りに仕上げることを目指す場合は「いい香りに仕上げたい」「真っ白にしたい」「シワをなくしたい」といった、自分たちにとってメリットのある観点でマーケットを切ることが重要です。ブランドが目指す方向性を踏まえたマーケットの切り方をすることで、使いやすいセグメンテーションになるでしょう。
消費者の属性や行動の結果で分ける「消費者セグメンテーション(顧客セグメンテーションという呼び方をする場合もありますがホジョセンは消費者セグメンテーションと呼びます)」という方法がありますが、ホジョセンは消費者の行動におけるドライバーで分けるセグメンテーションをご提案することが多いです。「楽しく洗濯したい」や「とにかく効率的に洗濯したい」といった分け方も、消費者の行動のドライバーですね。ドライバーで分けることで、消費者の意思決定に基づいた分け方ができます。そうすることで「誰に」「何を」提供するブランドなのかが明確になってポジショニングにつなげられる分け方をすることができ、結果としてビジネスにフィットするセグメンテーションになると考えます。このとき、ドライバーは分かれるけど行動は分かれないというケースが発生してしまうことがあります。そのため、顧客行動に違いが出るようなドライバーであることに注意が必要です。
これに関しては、セグメンテーションをどこまで複雑にするか(=細分するか)という話が絡むため、先に複雑さについてお話しします。
セグメンテーションにおいては共通項があるものを同じセグメントとしてまとめ、セグメント同士には違いがあるように分類することが求められますが、これは実はかなり難しい議論なのです。なぜ難しいのか、セグメント数が少ない場合と多い場合で考えてみましょう。
セグメント数を少なくする場合の難しさは、数を少なくすればするほどセグメント内の違いが目立ってしまい、異質な集団に見えてしまうところです。マーケットの消費者を2つに分けるとすると、セグメント内で共通項はあるものの、違いもたくさんあるという状態になってしまいます。具体例を挙げると、消費者を「洗濯を面倒だと感じる人」と「洗濯を楽しいと感じる人」に分けるとき、洗濯を楽しいと感じる人のなかには「いい香りがするから楽しい」「汚れが取れるから楽しい」など様々な楽しさを感じる人々が混在している状態になります。セグメンテーションを活用する側には、これらの違いに目を瞑って「楽しい」という共通項に目を向けることが要求されますが、これはかなりハイレベルな要求でしょう。
一方、セグメント数を多くする場合の難しさは、セグメント間の違いを全て理解しなければいけなくなることにあります。細かい分け方はマーケットを正しく表しているかもしれませんが、あまりにも細かく分けると、セグメント同士の差異が小さすぎて違いを理解するためにコストがかかりすぎてしまいます。セグメンテーションを理解できないと使いこなすことができず、セグメントに適した施策やコミュニケーションもできなくなってしまいます。
このように、セグメント数を少なくし単純化しすぎることも問題であり、数を多くして複雑化することも問題なのです。
よって、組織にとって適切な複雑さを決めるにあたっては、組織の規模や特性、ブランドが目指すシェアを考慮する必要があるのです。たとえば、シェア1%を取ることを目標にしているブランドが「約20%のセグメント5つ」という分け方をしてしまうと、セグメントが大きすぎますね。組織がセグメンテーションに慣れていない場合は、細かく分けて使いこなしが難しいものにするよりシンプルに分けた方が有益だ、という議論もあるでしょう(なお、慣れないうちはシンプルに分け、組織が慣れるにつれて分け方を細かくしていく、という対応もあります)。
冒頭でお話ししたように、セグメンテーションは結果的にポジショニングを行うためにあります。そのため、必ずしも行う必要はないのです。ニッチな市場を狙う小さなブランドの場合はセグメントを分けてしまうと逆にわからなくなってしまう場合があるので、そのときは無理やり定量的に細かく分けるよりも明確なポジションを決めてしまう方がいいかもしれません。
目標や使いこなす力で複雑さを決めることで、どのセグメントを選ぶかの段階(STPのターゲティングの段階)に入ったときに自分たちのビジネスに合ったセグメントを選びやすくなります。その結果として、消費者へのコミュニケーションが適切になる・精度が向上するといった成果につながるのです。
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セグメンテーションは分け方のテクニックが注目されがちですが、セグメンテーションが実際に使えるものにならないことには意味がありません。使えるもの・使いやすいものにするためには、ビジネスの目指す姿、組織の状態や適応力に合わせた分け方をする必要があるのです。セグメンテーションはSTPの最初にあるので、なんとなくここから始めるのだろうと思われがちですが、その前に、ビジネスに貢献するセグメンテーションとはどのようなものかを考えるべきではないでしょうか。
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