消費者の声を正しく聞こう〜調査とアンカリング効果の関係について〜

足立 理恵

アンカリング効果(アンカーリング効果ともいいますが)、みなさま、この言葉をご存知でしょうか?

アンカリング効果とは、人間の心理効果の一つで、人は最初に接したものをどう理解し、どのような判断や評価をしたかを基準にして、それ以降に接したものについても理解し判断するという現象を指します。

一説には、アンカリング効果が働くと、あらかじめ理解していても、先に見たもの聞いたもの・それらへの判断は、後に行う判断に覆すことができないくらいの影響を及ぼすものらしく、相当に強烈な心理効果であると言えます。

また、このアンカリング効果は、ほとんど無意識に日常のあらゆる場面でも起きています。例えば、「定価10,000円の○○が、いまだけ特別価格で5,000円!」といった広告がそうです。よく見かけますよね。「この商品は10,000円するものなんだ」という認識を先に作った上で、そのあとに5,000円を認識させ、それらの比較から「○○は(今は)安い・お買い得なのだ」と認識させようとしています。とても単純ですが、これもアンカリング効果を使った立派な例です。特に数字は判断がしやすいので、こういった広告やセールストークに割とあっさり納得させられてしまうのです(景表法には注意してください)。

さて、このアンカリング効果についてですが、実は調査の場(定量調査でも定性調査でも)でも、起こります。つまりは、先に見せられた情報や、質問に答えた内容が強く印象に残り、その後の質問への回答に影響するということです。

そもそも消費者調査は、世の中のリアルな状況を理解することが目的ですので、アンカリング効果により答えが左右されてしまうというのは困りものですよね。しかしながら、ありとあらゆる消費者調査においてアンカリング効果を完全に無効化させることはできないというのも現実です。

そこで、今回のコラムでは、「消費者調査では必ずアンカリング効果が起こる」ということを前提しつつも、定量調査であれば調査票作成の段階で、定性調査であればインタビューフロー作成の段階で、正しく消費者の声を汲み取るための工夫についていくつかお伝えしたいと思います。

聞く順番に注意する

先ほど少しお話ししたように、後に聞く質問への回答には、先に聞いた質問の回答内容に応じたバイアスが掛かります。先にポジティブな印象をもったことについては、その後もポジティブな印象をベースに会話が進みます。ですので、基本的には優先度が高い質問内容をフローのはじめの方で行うことをお勧めします。

ただ、1つ気をつけたいのは、回答者の中で自分の考えを絞り込むような質問は、最初には行わない方が良いでしょう。

例えば、対象が好きか嫌いか、使いたい・買いたいと思うか否か、といったことを真っ先に聞いてしまうと、大した観察や情報を得ないままなんとなく判断して答えてしまうケースもあります。後々「なぜ?」を解釈しようとしても、その他の話との辻褄が合わなくなることがあるのです。

この場合、まずは「どう感じましたか?」とぼんやりとした質問を投げかけて何かしら意見を述べさせる、または良いと思う点・良くないと思う点をそれぞれ語ってもらいましょう。ある程度そのものについて意識づけをしてもらった後で、良し悪しを判断してもらう方が、正確な意見がとれそうですよね。

複数のものについて優劣をつけてもらうような質問も、「複数のもの」の見せる順番・評価させる順番が影響します。全ての人に毎回同じ順番ではなく、見せる順番をランダム化するなどの工夫が必要になるでしょう。

言葉の誘導に注意する

インタビューの教科書でもよく注意されていますよね。必要以上にたくさんの情報を与えたり、質問に影響する観点を伝えるのはよくありません。

例えば、単純に「あなたが普段、健康のために心がけていることはありますか?」と聞かれた場合と、「日本の平均寿命が更新され続けるなか、世間では生活習慣の改善や認知症予防など健康寿命を伸ばすことへの関心が高まっていますが、あなたが普段、健康のために心がけていることはありますか?」と聞かれた場合を想像してみてください。

前者であれば、毎日30分ジョギングしている、こだわりの青汁を飲んでいる、夜12時には寝るようにしている、など、それぞれの人なり(あなたなり)に解釈する健康の中からの意見が出てくるでしょう。一方、後者の場合、話の流れ的に「健康に長生きするために心がけていること」という前提が意識されてしまって、その範囲であてはまることについて答えようとするはずです。

ではどこまで情報を与えるべきなのか、というのは、どの程度の観点で話を聞きたいのか、または、実際の生活の場でも消費者が同じような情報を得て行動なり判断をする(はず)という程度まで、になるかと思われます。もしそれを超えてしまうと、その質問に対する答えは、現実の消費者の声を反映しているとは言い難いですよね。

それでもどうしても聞きたいものは最後に

これを聞くと調査目的が伝わってしまう、例えば、具体的な(自社の)既存商品について・・・とう質問をどうしてもしたい(しなければいけない)時は、インタビューの一番最後に行いましょう。聞いた内容については、直前までの会話の内容が影響していることを念頭に置いてくださいね。

以上、具体的な注意点をあげましたが、「この調査で誘導はないか・答えにくくないか」ということを調査票や調査フロー作成時のチェック点に加えていただくといいかなと思います。また、調査意図が読み取れるか、という視点で第三者にテスト調査させてもらうのも良いでしょう。

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