コラム

独自性が強調されるブランドイメージ調査の聞き方は?

マーケのヒント
執筆
小田切 巴
公開日
2021年5月19日
更新日
2023年8月9日

ブランドイメージ調査の聞き方、実は2通りあることご存知でしょうか。ブランドイメージに限ったことではないですが、「比較」が絡んでくる調査では一度に評価する対象が1つなのか、複数を横並びで評価するのか、の大きく2通りがあり、前者は絶対評価もしくは単一評価法、後者は相対評価、または比較評価法と呼ばれています。今回はブランドイメージの2つの聴取方法に焦点をあて、自主調査の結果を元に、どちらがブランドイメージの聴取方法としてより理解しやすい結果が得られるのか、見ていきたいと思います。あまり注目されることのないアンケート調査での聞き方ですが、実は結果に関わる重要な役割を果たしています。

なぜ聞き方に注目するのか

ブランドイメージ調査自体はかなり実施頻度の高い調査であり、定点で実施しているという企業も多いのではないでしょうか。弊社でもブランドイメージの計測からご提案までを行うEquity Compassというパッケージサービスをご提供しています。今回その中で弊社が課題として設定したのは、ブランドイメージを聴取する際に絶対評価が良いのか、相対評価が良いのかという点です。

絶対評価では、それぞれのブランドについて単独で評価し、その差を比較するのに対し、相対評価は比較するブランドを全て提示し、その中で当てはまるブランドを相対的に選択してもらう形をとります。絶対評価の際には「非常に当てはまる〜全く当てはまらない」といった間隔尺度が用いられ、相対評価の際には当てはまるブランドをいくつでも選択できる、複数回答の形になります。

ホジョセンでは絶対評価の聴取方法を採用することが多く、理由として1ブランドについての情報量が多く、分析の柔軟性が高いという点がありました。ただ、相対評価では同じ対象者に全ブランドについて聴取するため、対象者の均一性が担保されることや、ブランドを強制比較させることができるなどのメリットがあります。

そのため、ブランドイメージ調査の主題であるブランドイメージの計測において、どちらがよりブランド間の差分を理解することができるのか、検証の必要がありました。

明らかにしたいこと

今回の検証で明らかにしたいことは以下の2点です。

  1. 絶対評価と相対評価で、各ブランドのイメージ評価の傾向は同一であるか
  2. 絶対評価と相対評価で、各ブランドのイメージ評価の傾向が同一の場合、どちらがよりブランド間のイメージ項目の差の理解に適しているか

検証方法

絶対評価と相対評価で同じ対象者条件のもと、同一のブランドについて別個にブランドイメージ調査(ウェブ調査)を実施しました。

対象ブランドは牛丼チェーンの4ブランド(吉野家、すき家、松屋、なか卯)とし、相対評価では4ブランドを提示した上で、イメージ項目に当てはまるブランドをすべて選択してもらいました。絶対評価では4ブランドのうち2ブランド(吉野家、すき家)について、単独での評価を連続して行い、それぞれ6段階の間隔尺度で回答を得ました(回答ブランドの順序はランダム)。

通常のBrand Compassでは、絶対評価のケースはひとり1ブランドの評価しかしません。今回は自主調査ということもあり、予算制約からひとり2ブランド評価してもらっています。

その他の調査設計は、下記の通り絶対評価・相対評価で同一に揃えています。

調査時期2019年6月
調査対象者吉野家、松屋、なか卯、すき家の認知者
性年代は出現率に応じて割付、
牛丼チェーンを利用したことがない人は除く
サンプルサイズn=150ずつ

今回の調査設計による制約は以下の通りです

  • 相対評価は4ブランド見た上での評価、絶対評価は1ブランドずつの評価となるため、厳密には公平な比較ではない
  • 調査の便宜上、対象者は4ブランド全て認知していることを条件としているため、カテゴリ利用者全体に対する代表性は低い

絶対評価(単一評価法)による聞き方

以下のようなブランドイメージ質問を各ブランドごとに聴取します。評価尺度についてはリッカート尺度といわれる価値観の度合いを聴取する間隔尺度を使用します。

ちなみに中間指標「どちらともいえない」を入れるかについてはそれぞれのメリットデメリットからどう判断するべきかをまとめていますので、ぜひ参考にしてみてください。評価尺度の数についても様々な先行研究があり、今後ご紹介していきたいと思います。

相対評価(比較評価法) による聞き方

各項目についてブランドを横並びで聴取していきます。その際、通常は対象者の認知しているブランドのみを提示します。実はこの点がブランドイメージの相対評価における大きな制約になるのですが、この点については後述します。

検証結果

相対評価はブランドの強みがより強調される

2つの聴取方法によるイメージ項目の評価を比較すると、傾向としては同一であるものの、評価の度合いに規則性を持った違いがあることがわかりました。

なお、絶対評価による6段階の回答データと、相対評価による複数回答のデータを比較するため、以下2つの処理を実施しています。

  • 回答データの変換: 6段階の回答データのうち、上位3つのいずれかに回答されれば1、回答されなければ0、へデータ変換し、1/0の回答データとして統一
  • データの正規化: 回答データ変換後、絶対評価、相対評価それぞれについてブランドごとの選択率を正規化

各ブランドのブランドイメージ50項目について、正規化した値を比較してみます(グラフ1、2)。データの傾向は似ていますが、特にブランドの評価が高い項目において相対評価による結果の方がより高くなっていることが分かります。

グラフ1 吉野家 正規化後ブランドイメージスコア
グラフ2 すき家 正規化後ブランドイメージスコア

さらに、2つの聴取方法によるデータの関係性を散布図として見ると(グラフ3、4)、ブランドイメージ評価が絶対評価・相対評価間で一定であれば、グレーの直線で表される \(y=x\) にデータが近似しますが、特に正規化後のスコアが1.5以上の評価が高い項目において相対評価の方がより項目間の差が強調されている(\(y=x\)よりも上振れている)ことが分かります。直線よりも、2次関数の関係性に近くなっています(\(x\): 絶対評価、\(y\): 相対評価)。

グラフ3 吉野家 正規化後ブランドイメージスコア散布図
グラフ4 すき家 正規化後ブランドイメージスコア散布図

相対評価の方が、ブランド間のイメージの強弱も理解しやすい

吉野家とすき家の2ブランドについて、各イメージ項目の差分をそれぞれの聴取方法で比較してみます。先述のブランドごと正規化したイメージ項目の値について、吉野家とすき家の差分をとり、グラフ化します(グラフ5)。値が正の方向に大きいほど吉野家の評価が高く、負の方向に大きいほどすき家の評価が高くなります。(※実際の相対評価では4ブランドを提示していますが、比較のため2ブランドのみの差分を抽出しています)

絶対評価と相対評価でブランド間の優劣が大きく逆転している項目は認められないため、ブランドイメージの優劣について大きく結論が変わることはないと考えられますが、相対評価においてブランドの強みが強調されているため、ブランド間の差分の値も大きくなり、ブランドイメージにおける独自性がより捉えやすいと言えます。

グラフ5 吉野家-すき家 正規化後スコアの差分

相対評価の方が、回答負荷が軽減されそう

調査データの品質の観点では、相対評価において対象者の回答ストレスが少なく、データクリーニングによる脱落が少ないことがわかりました。

ホジョセンでは回答結果を元に縦一列回答などの不誠実回答者を除くデータクリーニングを分析の際には必ず実施していますが、これまでの絶対評価を採用した調査では平均して30%程度の不誠実回答者がおり、課題の1つでもありました。相対評価ではこの不誠実回答の割合が16%軽減する改善が見られ、相対評価の設問としての回答のしやすさが対象者の回答ストレス軽減、データクリーニングによる脱落の軽減につながったと考えています。

ブランドイメージ調査に限らずアンケート調査においては、回答負荷を下げて、得られるデータの精度をできる限り高めることは必須です。その点、相対評価のほうが回答負荷が低く、より正しいデータを得られやすいことが示唆されました。

結論

今回の検証結果からわかることを踏まえ、2つの聴取方法の特徴をまとめると以下のようになります。特定のブランドについて細かい対象者条件を設定したい場合や、個人毎での同意度の強弱を使ったデータ分析を実施したい場合(因子分析など)を除き、ブランドイメージの強弱をよりわかりやすく測る、という点においては相対評価の方が優れていると言えそうです。ただし、今回の検証には上記で述べた制約もあり、実際の活用において考慮すべき点がいくつか残っています。

絶対評価相対評価
メリット
  • 間隔尺度で聴取するため、同意の強弱で分析が可能(非常に当てはまると回答した人 vs やや当てはまると回答した人)
  • ブランドについての細かい対象者条件の設定が可能
  • ブランドイメージ項目間のばらつきが大きく、ブランドの強み・弱みがより強調される
  • 対象者の回答ストレスが少なく、データクリーニングによる脱落が少ない
  • 同一対象者に全ブランドを聴取するため、ブランド間の回答者の均一性が担保される
  • 異なる領域を持つブランドを強制比較することができる
  • 調査コストが抑えやすい
デメリット
  • ブランドごと認知者サンプルが異なるため、対象者間の均一性の担保が難しい
  • 調査コストが高くなりやすい
  • 個人毎での同意度の強弱は反映されない
  • ブランドについて細かい対象者条件の設定は不可

相対評価における今後の研究課題

今回の検証における大きな制約として、対象者が4ブランド全てを認知していることがありました。実際の活用場面では、対象ブランドを全て認知していることを対象者条件としてしまうと推定したい母集団に大きな偏りが生まれるため、カテゴリによっては現実的ではないでしょう。特に認知率の低いブランドが調査対象として含まれる場合、考慮すべき点がいくつかあります。

「認知がない=ブランドイメージがない」で良いのか

相対評価では上記で述べたように、通常認知しているブランドのみが比較対象として提示されるため、認知率が低いブランドが含まれる場合、そもそも比較ブランド群の中に含まれないケースが多く発生します。その際に、ブランドが提示されていない=ブランドイメージがない、として集計されると、純粋なブランドイメージの強弱と、認知の強弱を同時に計測している形になります。

認知も含めてブランドイメージが形成される、という考え方もあるでしょうし、認知の広さとブランドイメージ(≒認知の深さ・質)は分けて計測するべき、という考え方もあるかと思います。ブランドイメージ調査においてどちらがより有用なのか、特に認知の低いブランドが含まれる場合には慎重に判断するべきだと考えます。

なお、絶対評価の際には認知していないブランドについて回答を求めることは通常ありません。そのため、絶対評価においても認知率による補正を行わない場合、認知率の低いブランドの評価が高く算出される懸念は存在しています。

回答選択肢の数の違いによる回答傾向への影響

対象ブランドの数が多くなり、認知しているブランド数にばらつきが見られるカテゴリの場合、回答者によって選択肢の数が大きく変わる可能性があります。例えば対象ブランド群が8ブランドある場合、2ブランドのみ比較している人と、8ブランド比較している人が発生する可能性があります。果たして両者の回答を公平に扱って良いのでしょうか。

弊社の過去の調査結果では、回答対象のブランド数が増えたとしても、選択されるイメージ項目の総数に大きな変化は見られませんでした。結果として多くブランドを提示されている対象者の方が、ブランドあたりのチェック数が少なくなる傾向が見られることを意味します。要因としては提示ブランドが増えるほど回答負荷が上がることや、回答傾向そのものの変化などが考えられます。

このように、相対評価はメリットも多いですが、ブランド認知差が激しいカテゴリでの採用には注意が必要です。上記の点を考慮した上でどちらの聴取方法が調査課題に対してより正しい結果を得られそうか、調査設計の段階でしっかり議論されることをお勧めします。

ブランドイメージをきちんと理解したい方は

ホジョセンでブランドイメージ調査を承る場合には、ビジネス課題やカテゴリ特性に基づいて聴取方法のご提案をさせていただいています。

また、ブランドイメージの計測についても、単純に数値を比較した強弱ではなく、際立って消費者に認識されているブランドイメージやそれらの関係性を統計的な解析によって抽出し、次のコミュニケーション戦略へつなげていただける提案型のサービスとなっています。大手IT企業や消費財メーカー、地方公共団体のブランド戦略などにご活用いただいており、ご興味ある方はぜひお気軽にお問い合わせください。

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