値上げ、割引の前に知っておきたい3つの法則

小田切 巴

ホジョセンでは、さまざまなクライアントさんから価格についてのご相談を受けていますが、よく耳にするお悩みは以下のようなものです。

  • 価格が高いと言われてしまい、なかなか商品が売れない
  • どれくらいまでが消費者の値上げの許容範囲なのかわからない
  • 特売・セール中にしか商品が売れない

実はこれらの悩みは全て、価格に関する消費者行動の法則が影響しています。今回は上記のような価格に関する課題がなぜ起きているのか、回避するにはどうしたらよいのかをマーケティングの法則に基づいてご紹介します。

Empirical Generalizationとは?

今回ご紹介する法則はEmpirical Generalizationとよばれる帰納的推論の1つで、日本語では「経験的一般化」と訳されることが多いようです。

Empirical Generalizationとは

先に理論を着想し、現象により裏付けをするアプローチではなく、実際に繰り返し起きている現象を観察、測定した結果から共通する概念を抽出し、一般化したものがEmpirical Generalizationです。Bass diffusion modelで有名なBass教授による定義は、以下の通り。

  • 様々な状況の中で繰り返し、共通して現れる現象
  • シンプルな数式、図式、記号などで表現することができる
  • ただし、全ての状況に当てはまる必要はない

Frank Bass, Empirical generalizations and marketing science. Marketing Science, Vol. 14, No. 3, Part 2 of 2: Special Issue on Empirical Generalizations in Marketing (1995), pp. G6-G19より

このEmpirical Generalizationはまさに実際に起きていることの観察・測定に基づいているため、難しい理論を実践にかみくだく必要はなく、日々起きている現象に落とし込むことができます。またエビデンスに基づいているため、同じ状況下ではこれから起こりうる事として、非常に説得力があります。

実際に、マーケティングにおけるこれらの法則をフル活用して考察されたByron Sharp教授の著書How Brands Growは英国でベストセラー&ロングセラーとなっており、Sharp教授の属する研究所は、P&GやMarsをはじめとする多くの企業のブランディングに影響を与えたと言われています。

Empirical Generalizationを知ることで、日々直面しているマーケティング課題がなぜ起きているのか、また解決するために抑えておくべきポイントはどこなのかを考えやすくなることでしょう。

今回はその一例として、冒頭でご紹介した価格に関する課題がどのようにEmpirical Generalizationによって説明されるのか、またその解決のためのヒントを見ていきたいと思います。

価格にまつわる3つの法則

消費者が商品の価格を認識する際、以下の3つの法則が影響することがEmpirical Generalizationとして報告されています。

  1. 消費者は自分の中の基準値に照らし合わせ、価格の判断をしている
  2. 価格の変化に鈍感な価格帯がある
  3. 同じ価格の変化でも損ととるか、得ととるかで消費者のモチベーションは違う
Kalyanaram, G. and R. S. Winer, Empirical generalizations from reference price research. Marketing Science, Vol. 14, No. 3, Part 2 of 2: Special Issue on Empirical Generalizations in Marketing (1995), pp. G161-G169

その1:消費者は頭の中に価格のものさしをもっている

先日、1歳になる息子を初めて水族館に連れて行こうと思い、一番近い水族館を検索することがありました。すると入場料が大人1人2200円とあり、私は「たかっ!」と感じてしまいました

私のこの「たかっ!」はまさに法則の一つ目、自分の中の基準値とのギャップが大きく影響しています。その時、私の基準価格となっていたのは少し前に訪れた動物園の入場料でした。その動物園の入場料は大人600円、子供は小学生まで無料でした。この基準となる価格は内的参照価格とも呼ばれています。

このように消費者が価格の良し悪しを判断するとき、必ずその人の中で何かしらの比較が行われます。そしてそれは人それぞれ違います。他の水族館の入場料が基準となっている方もいれば、私のように休日のお出かけスポットとして動物園の入場料と比較する人もいます。

もっと言うと、状況によっても変わってきます。例えばこれが旅先にある水族館であれば、せっかくきたのだから、と2200円の入場料でも迷わず購入するかもしれません。これは分脈効果と呼ばれています。

価格設定をする際にはこれらの消費者の頭の中にある価格を考慮する必要があります。値段が高い!といわれている場合は値付けが消費者の基準値と大きくずれている可能性があり、PSM分析(価格感度調査)などの消費者調査で内的参照価格を確かめてみるとよいでしょう。

ただし、例外として新規カテゴリやイノベーティブな商品など、基準価格が存在していない商品・サービスについてはPSM分析は向いていません。消費者がまだ価格のものさしを持っていないため、消費者調査を実施しても信憑性のあるデータが得られる可能性は低いです。「ドラえもんをいくらなら買いますか?」と聞かれてはっきりと答えられる人がどれくらいいるでしょうか。

その2:消費者が「値段が上がった!」と感じるのはどのへんから?

前述のとおり消費者は基準となる価格を持っていますが、その周辺では価格に対する反応が鈍感になることがわかっています。

例えば、一般消費財では±4-5%の範囲で鈍感になるという研究結果があります。(Kalyanaram G. and J. D. C. Little, An empirical analysis of latitude of price acceptance in consumer package goods. Journal of Consumer Research, Vol. 21, No. 3 (1994), pp. 408-418)

つまり、ペットボドルのお茶は大体180円という基準の価格があった場合、+5%の189円までの範囲ではそれほど値段が違う、とは感じにくいということです。ただし、この鈍感な価格の範囲はカテゴリや人によって変わります。また、商品に対してロイヤリティの高い消費者は鈍感な価格の範囲がより広いことがわかっています。

この鈍感な範囲は、POSデータの価格帯別単位配荷率あたり販売数量を見ることである程度算出できますし、消費者調査でも推測することは可能です。値付けや値上げをする際はこの価格幅を意識して価格設定をするとよいでしょう。

その3:絶対に触れてはいけない「損」感情

さらに、同じ価格でも値上げと感じる方が値下げと感じたときよりもより消費者の反応は大きくなります。これはプロスペクト理論と呼ばれていますが、人は「損」を極端に嫌う習性があるのです。この習性は理性や合理性を上回り、人を突き動かすモチベーションとなります。競馬の最終レースで大穴に賭ける人が増えるもの、この「損」をなんとかして取り返そう、という感情が理性を上回る現象です。

実際の価格の上下と、それに伴う心理的価値をグラフに表すと以下のようになります。

利益と損失における心理的価値の違い

同じ1万円であっても、利益として得る場合に比べ、損失として失う方が心理的な影響は2~2.5倍大きくなります。

この法則を商品の値引きにあてはめて考えると、例えばいつも600円で入れる動物園が、夏休みキャンペーンで400円で入場できるとなると、もちろん客数は増加します。ただ、この特価が長期間、また頻繁に行われてしまうと消費者の基準の価格自体を400円に下げることにつながります。

そして通常の600円に戻った際、前は400円で入れたのに、今行くのは「損」という認識が生まれてしまいます。「200円安く入れる、お得!」という感情以上に、「200円高い、損!」という感情の方が強く影響するため、結果お客さんが戻ってこない、ということにつながってしまう恐れがあります。

こういったことを避けるために、値引きの頻度や期間には気をつける必要があります。

さらに、値引き時の価格を意識させない(基準の価格を下げない)ため、キャッシュバック式にしたり、クーポン値引き、セット販売での値引き、ポイントカードでのポイント還元などの方法があります。

また、どうしても値上げをせざるを得ない場合には少額ずつ段階的な値上げにする、または価格は変えず、容量を減らす実質値上げなどもよく使われるテクニックです。

セール中にしか商品が売れない、というケースは、かなり規則的、かつ大々的にセール告知を実施してきたため、消費者の参照価格がセール価格まで落ち、定価=「損」という認識が生まれてしまっている可能性があります。お刺身の夕方タイムセールなどはこの例ですね。

この認識を変えるのは容易な事ではありませんが、セール期間外で消費者の基準値を塗り替えるような新しい価値とそれに見合った基準値の提供が必要になります。スーパーの例でいくと、物産展や、朝どれ市などが考えられるでしょうか。

なお、別のEmpirical Generalizationでは、「価格販促は長期的にはシェア向上に寄与しない」という研究成果もあります(R. Lal and V. Padmanabhan, Competitive response and equilibria. Marketing Science, Vol. 14, No. 3 Part 2 of 2: Special Issue on Empirical Generalizations in Marketing (1995), pp. G101-G108)ので、価格販促が本当に必要なのかを検討することもおすすめです。

消費財に限って考えると、日本の小売環境では棚におけるフェイス(面積)が海外と比べて取りづらいため、目立たせるという意味での「山積+価格販促」はある程度効果があるかもしれません。

今回ご紹介したEmpirical Generalizationは、消費者の価格の認知の仕方についての法則でした。

  • 値付けの際には消費者の基準となる価格を考慮する
  • 価格に鈍感な範囲があることを利用する
  • 安易な値下げで消費者の「損」感情を呼び起こさない

価格戦略についてお悩みの方は、ぜひホジョセンまでご相談ください!

ホーム ホジョセンコラム 値上げ、割引の前に知っておきたい3つの法則