コラム

いろんなシンプル〜消費者の言葉を掘り下げる〜

マーケのヒント
執筆
足立 理恵
公開日
2018年5月15日
更新日
2022年9月30日

1つの言葉、色んな意味

おかげさまで、昨年度もホジョセンではたくさんのプロジェクトで様々な定性調査にかかわらせていただきました。

私自身もいくつかのブロジェクトに参加し、クライアントさまと一緒にインタビュールームで立ち会わせていただいたり、訪問調査に同行して色々とお話を伺う機会があったのですが、その中で1つ、たまたまなのかもしれませんが、本当によく耳にした言葉があります。

それは「シンプル」という言葉です。

おもに商品に関するインタビューの場で、モデレーターが「この商品について、どのようにお感じですか?」とたずねた際、一言目に、シンプルでいいですね、と答えられることが本当に多かったのです。私自身を振り返っても、そういえば日常的によく使う言葉だなあと実感します。

辞書で定義される「シンプル」の意味は「単純なさま、簡素なさま」と大変明快な表現なのですが、インタビューの場で発せられる「シンプル」はというと、その限りではありません。

例えば、「シンプル、とお答えいただきましたが、○○さんにとってシンプルってどういう意味ですか。この商品がシンプルだと○○さんにとってどんな良いことがありますか?」など質問しながら掘り下げて教えてもらうと、「シンプル」という言葉は実にたくさんの意味合いで認識されており、あいまい語として使われていることがわかりました。

では、具体的にご紹介しましょう。

商品に関するインタビューで、商品のパッケージや見た目に関わること・それを受けて質問したときのことです。

シンプルとは、ある人にとっては「飾りとか無駄なものがなくてすっきりしていて、好ましい」ものであり、また、ある人にとっては「主張が強くないので、どこにあってもその場に馴染むし、ほかのものと合わせやすい」もの、「余計なものがなくて洗練されている感じ、おしゃれなので見ていて嬉しくなる」ものとのことでした。

ちなみにホジョセンのインターン生は、「シンプルなのって流行りお店とかに置いてあって・・・なんかおしゃれじゃないですか」と言っていました。

いかがでしょうか。実に様々な「シンプル」がありますね。

どうやら、同じ言葉を選んでいたとしても、その言葉を発する人により、ニュアンスが少しずつ異なっているようです。

使われ方の違いで、言葉がもたらす価値も変わる

「シンプル」という状態が、洗練されている・おしゃれ、といった主観的な評価までを含んで言葉として語られているケースもあれば、比較的辞書的な意味合いで「シンプル」という言葉を使い、機能的な良さを認識している人もいます。

そして、定性調査の際に特に留意しなくてはいけないのは、同じ「シンプル」という言葉であっても、その認識の違いにより、シンプルさによってもたらされる良いこと(=価値)も違ってくるということです。

シンプルと同じような使われ方をする言葉として「かわいい」が挙げられますが、この言葉も、最近は日常のいたる場面で耳にするかと思います。

子犬や子猫を指して「かわいい」ということもあれば、空気を読む日本人ならではといいますか、話し言葉としてなら、場の雰囲気を壊さないため・適当なあいづちとして、「かわいい」と言うケースもあるくらいです。

人や場面により、様々な「かわいい」の意味があり、「かわいい」がもたらす価値もまるで違っていますよね。

定性調査で求められること

あらためて、今回の「シンプル」は、消費者インタビューでは「生の声から言葉の意味を理解しなければいけない」ということを実感したワードでした。

今回のように、言葉ひとつ取っても語った人なりの意味するところがあり、それを聞いた人間は当たり前にわかっていることだと思わず、確かめていく必要があるんですね。

インタビューされる側の立場で考えてみても、初めて見たもの・聞いたものについても、もしかするとその質問をされるまで意識したこともない内容に意見を求められ、わずかな時間で思いを巡らせて質問に答えてくれています。

そんな状態で、毎度、自分の考えや言いたいことについて、正しく言葉にするというのは相当にハードルの高いことではないでしょうか。

インタビューでは、対象者が必ずしも自分が本当に言いたいことを言えているとは限らない、そう考えて、くどいながらも、慎重に対象者が発する言葉の真意を確認していく必要があるのではないでしょうか。

定性調査では、消費者が具体的にどんな行動をしているか・物事に対してどのような認識を持ち・態度をとっているか・・・などを聞き出すことから始めて、その人の中にどういう価値観が存在しているのかを含めて、消費者を理解しようとします。その人なりの価値観にもとづいて判断や行動に至るロジックを理解をする、ということです。

消費者から発せられた言葉をそのまま受け止めるのではなく、まずは自分自身の思い込みを捨て、謙虚にその真意を確かめることがインタビューに臨む際の大事な姿勢かと思います。

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