コラム

持続的イノベージョンにおいて心掛けるといいこと

Q&A
執筆
金本 奈絵
公開日
2018年12月12日
更新日
2019年5月21日

電子機器メーカーのマーケティング部に所属しています。

弊社の主力商品はデジタルカメラなのですが、過去に光学ズーム搭載のカメラが空前の大ヒットになったという前歴を持つことから、商品開発の部署から持ち上がってくる新商品の企画は、毎回のように光学ズームの性能を改良するようなものばかりです。こうして私たちが光学ズームにばかりこだわっている間にも、競合他社からは、撮影写真の加工機能が充実したものや、「自撮り」に焦点を当てた新機能を搭載したものなど、新しいアイデアが続々と登場しています。光学ズーム機能が弊社の強みであることは分かっているのですが、このまま光学ズーム機能だけを追求し続けていいのでしょうか?

電子機器メーカーマーケティング部

既存の自社製品について、機能やサービス、生産プロセスの向上を図るような取り組みを持続的イノベーションと呼びます。

ご相談者さまたちにとって、光学ズームこそが自社の強みであり、今後もその強みを伸ばし続けたいと考えるのであれば、そこにこだわって持続的イノベーションに取り組むこと自体は、ブランディングの観点からいっても、決して間違っているわけではありません。

ただし、実際に強みを強化して新商品を出すということであれば、「競合他社が追随できないレベルに圧倒的強みであること」、そしてこれがクリアされた上で「消費者にとってその強みが重要であること」という2段階の条件を満たしていない限り、ご相談者さまが心配しているように、消費者の選択肢が無限にある昨今、競合他社との競争を生き抜くことはできません。

1.競合他社が追随できないレベルの圧倒的レベルでの強み

ご相談にあるように、新商品企画の度に光学ズームについての提案が挙がってくるということは、御社は会社としてそこに誇りを持ち、恐らくですが、現在でも業界トップクラスの性能を維持していることと思います。

ただ、御社の主力商品であるデジタルカメラの現在のズーム倍率が40倍だったとして、それが41倍になったところで、それが理由で他社から御社のデジタルカメラに乗り換えるでしょうか。確かにズーム倍率が40倍から41倍になれば、それは進歩であり、十分高性能であるといえますが、消費者の心を動かし、そして行動を変えさせるには他社と横並びのトップクラスではなく、倍率80倍100倍・・・・と簡単に他社が真似できないくらいに圧倒的に差をつけないといけません。

あくまで例えですが、これまで、運動会で子どもたちの顔を撮るので精一杯だったデジタルカメラが、地上から月のクレーターまで鮮明に映し出せるようになったと言われたら、どんなにカメラに疎い人でもきっと「それはすごい!」となりそうですよね。

2.消費者にとって強みが重要である

では、御社の新商品となるデジタルカメラが、光学ズームの性能において1で話したような競合他社が追随できないレベルの圧倒的強みを達成したとして、そこまで高性能な光学ズームの性能が本当に消費者から必要とされているのか十分に検討する必要があります。

1の例えだと、「ぜひとも地上から月のクレーターを撮影してみたい」という人が一定数以上いるのであれば、光学ズームの性能にさらに磨きをかける意味は十分にあると言えます。しかし、誰もが口を揃え「運動会で我が子の顔が撮れれば十分。高倍率の光学ズーム機能なんて必要ない」ということであれば、そこを強化しても消費者が御社の新商品を選ぶことはないはずです。

ただ、消費者が現認していないスペックの商品に対してニーズがあるかどうかは、別の見方をすればニーズを作り出すことができるかどうか、と考えることもできます。現時点で消費者のとって重要でなくても、コミュニケーションによってそれを重要だと考えてもらうように消費者の態度変容を促すのもマーケティングの重要な役割です。

さて、今回は持続的イノベーションを行う際に心掛けてほしいというポイントについていくつかお話しさせていただきました。もしかすると、今回お話しした2段階の条件を満たすためには、「研究開発にいくら投資すべきか」などマーケティングの範疇を超えた問題も発生するかもしれません。

ですので、より消費者から選ばれる新商品を世に送り出すためにも、日ごろから、部署間を超えて自社商品に関わる全ての人たちがコミュニケーションをしっかり取れるような環境をつくっておくことが重要になります。

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