これまでの10年、これからの10年、
生活者はどう変化し、
企業はどう変化していくのか?

高橋
本日は、株式会社ホジョセンの10周年記念企画として、デジタルやITの領域でお仕事や研究をされてきた柿原教授と、人と人が実際に触れて物を食べる居酒屋という領域を長くみてこられた鳥貴族ホールディングスの道下取締役という、本来はかなり遠い領域同士のおふたりで対談ができたら面白いシナジーが生まれるのではないかと思い、お声がけをさせていただきました。

早速対談に入っていきたいのですが、まずは簡単に自己紹介をお願いいたします。

柿原さん
東京理科大学 経営学部 国際デザイン経営学科の教授をしております柿原です。2021年に設立された国際デザイン経営学科に2022年4月から教授として就任しました。主にデジタルマーケティングやデータ分析領域において教育・研究を担当しています。前職では約10年間に渡りGoogleのマーケティング部門にて日本や東南アジアのマーケットにおける消費者の検索行動の分析をメインに行っておりました。

道下さん
鳥貴族ホールディングス取締役 経営企画室室長の道下です。2007年に学生時代に4年間アルバイトをしていた株式会社鳥貴族に経理担当として中途入社して以来、従事した業務は総務や情報システムの整備、法務、財務、戦略立案と多岐に渡ります。上場準備に関わっていたこともあり、社内の何でも屋という感じでやってきました。

高橋
ありがとうございます。

対談の最初のテーマは、「この10年、印象に残る変化は?」です。おふたりそれぞれから見た変化についてお聞かせください。

消費者は情報の判断基準を他者に求めるようになり、企業の既存のマーケティングメッセージの信頼性が相対的に低下した

柿原さん
これまでの10年では、スマートフォンは新規テクノロジーとして例を見ないスピードで一気に普及しました。歴史を紐解いていくと、電子レンジやクーラーのような家電製品ですら普及率が8割を超えるまで20年、30年かかりましたが、スマートフォンは登場からたった10年ほどで8割を超えました。これは強い社会トレンドと個人のニーズが紐づいたからに他なりません。一方で、消費者がいつでもどこでも無料で情報にアクセスできるようになり、情報流通量が増加しました。

道下さん
飲食店にとっては、「どこに食べに行こうか」とお客様が考えるタイミングでブランドを想起してもらうことが非常に重要で、それはスマートフォンの中でお店の存在感がどれだけあるかで決まります。そういった意味で、居酒屋もスマートフォンの台頭が企業経営に影響しているという印象はあります。

高橋
消費者が情報をいつでもどこでも調べられるようになったことで、消費者が調べるプロセスにおいて企業は大量の情報の中で勝たないといけなくなったのですね。

東京理科大学 経営学部 教授 柿原さん

柿原さん
情報が過多になることで、消費者は何が必要な情報なのかが分からなくなっているように思います。どの情報が自分にとって意味があるのか、信頼できるのかを判断する基準を他者に求めるようになってきていて、インフルエンサーやYouTuberの台頭が見られるようになっています。

道下さん
お客様は企業ではなく個人からの発信に信頼を置くようになってきています。良質なクチコミを残してもらうことはマーケティング施策の目標のひとつとして考えていて、鳥貴族からの発信もその観点を必ず考えています。お客様に直接届けるだけでなく、良いクチコミを発信してもらえるように企業活動の考え方も変化しました。

高橋
この変化の中でも、鳥貴族は存在感を保っているように感じていますが、意識していることはありますか。

鳥貴族ホールディングス 取締役 経営企画室室長 道下さん

道下さん
店舗数の増加に伴い店舗あたりの来店客数が減少し始めた時期がありました。この時に、店舗を増やすことが必ずしもお客様の数を増やすことに寄与しておらず、美味しいものを安く提供するというだけでは足りないのだと気づきました。この事がホジョセンさんにマーケティング支援をお願いするきっかけにもなったのですが、どういったメッセージをどのように伝えるべきか、美味しさだけでなく店舗体験で満足してもらうために何をすべきかを考えるようになりました。

高橋
消費者がブランドに求める価値にも変化が起きていますね。数多く存在している支援会社の中から弊社を見つけていただきありがとうございます(笑)。では、ここで次のテーマ「この先の10年で企業は変化にどのように対応していくべきでしょうか?」についてもお話を聞かせて下さい。

企業はメッセージを発信するだけでなく、事業に結びついた社会的意義を追求し続けることで消費者の信頼を取り戻すことができる

柿原さん
自分が考える前に情報におぼれてしまう状況でも、変わらず消費者を悩ませることは、「信頼できる情報は何か」です。だから企業は、どういった想いを持って事業を展開しているのか、どういったストーリーやナラティブとして表現されるべきなのか、その会社のサービスや製品を下支えするもの、根拠となるものとしてきちんと用意する方が良いでしょう。

道下さん
ブランドはこれまで主に品質の良し悪しや情緒的な結びつきで選ばれていたのですが、これからはただ品質が良いだけでなく社会的な意義をしっかりと意識しなければお客様から見向きされなくなる時がくると感じています。鳥貴族でも、たとえば国産へのこだわりを言い続けていくことでお客様に鳥貴族の信念に気づいてもらえる、伝わっていくのではないかと考えています。

柿原さん
言い続けるっていうのは肝ですね。Googleには創業当時からふたりの創業者が言い続けている「世界中の情報を整理し、世界中の人がアクセスできて使えるようにすることです。」という企業ミッションがあるのですが、これが日々のミーティングで語られているところがGoogleのすごさでもあると考えています。愚直にミッションにもとづいてやり続ける、シンプルなことでも言い続けるという文化はすごく大事だと思います。

自分ごとにしやすい理念を語り続けることで、社内に浸透させることができた

道下さん
弊社でも大倉社長が創業時から理念を語り続け、それに準じた経営をし続けていることは強みになっているでしょうね。「焼鳥屋で世の中を明るくする」という理念は壮大なことを言っています。とはいえ僕らはたかが焼鳥屋でちっぽけな存在でもあるわけです。そんな僕らでも世の中にインパクトを与えることができるんだ、という弊社の理念は自分ごとにしやすいので、社内でもとても浸透しています。

高橋
鳥貴族の「焼鳥屋で世の中を明るくする」、Googleの「世界中の情報を整理し、世界中の人がアクセスできて使えるようにすることです。」は事業との結びつきも強く、非常に分かりやすいですね。それを言い続け、それに見合った行動を経営陣も従業員も取り続けているから企業の姿勢として芯が通っています。

道下さん
コロナ禍において社会的欲求はデジタルだけでは満たされないことが分かり、お客様も意義のある消費を重視するようになってきました。鳥貴族でも店舗体験の重要性が理解できたことも相まって、居酒屋はリアルなコミュニケーションの場として社会的意義を持っていくのではないかと思います。

事業に結びついた理念やミッションだからこそ、消費者の信頼を得ることができる

高橋
パーパスが流行ってるからと流行にのってそれを作ってアピールしても、消費者の信頼を得られません。真に理念や社会的意義を追求しているからこそ、そこに信頼も生まれてくるのだと思います。

同時に、理念やミッションと事業との結びつきによって消費者が企業を信頼できるようになっていく流れは、企業のマーケティングメッセージの信頼性が低下したこれまでの10年からの揺り戻しのようでもあり、興味深い点ですね。

柿原さん
鳥貴族さんのように人口ベースでの考え方が重要なビジネスがある一方で、アカウント(ID)ベースの考え方も今後広がるのではないかと予想しています。若者はひとりで複数アカウントを持つことが当たり前になっています。人口構成比だけでは若者のプライオリティを下げてしまいがちですが、アカウントベースでの若者アカウントの構成比は人口とは比べ物にならないくらい大きいはずです。こういったバーチャルな世界についても企業は考えるべきでしょうね。

これからの10年でホジョセンに期待すること

高橋
残念ながらここで時間切れです! 興味深いお話でもっとお伺いしたいところなのですが、最後に、「これからの10年でホジョセンに期待すること」を教えていただけますか?(照)

道下さん
どうやって売上を上げていくのか、ブランドとはどういうものなのかを掘り下げていき、マーケティングという概念を会社の中に入れてもらったおかげでコロナ禍でも前を向いて、何をしないといけないのかを全員が考えられるようになりました。コロナ禍で売上が厳しいなかでもプラスだったと思います。引き続き当社のマーケ分野の成長を支えてもらえるとありがたいです!

柿原さん
ホジョセンのやってることやスタンスは貴重で、クライアントの課題を深く理解しようという姿勢を持っていて、クライアントの課題に介して意味のある貢献をしようと考えてくれる人たちは、仕事してきた中でも稀有でした。糸口も掴めないような難しい問題といえばホジョセンというパーセプションがあります。姿勢、スタンス、それをサービス事業に落とし込んでいく、サイエンティフィックなところも好きなので、ご発展を心より期待しております。